プロローグ 再びサロマ湖ヘ 原生花園の鳥 最北の宗谷岬 利尻富士の島
花の島・礼文島 サロベツ原野 野鳥の森・兜沼 エピローグ HOME




道北の原生花園と島 〜〜 最北の宗谷岬 〜〜


6月14日(火) 晴れ

[ 行程 ]
浜頓別 R275 ==> ウソタンナイ砂金採掘公園 R275 ==> クッチャロ湖 R238 ==> ベニヤ原生花園 
R238 ==> 宗谷岬 R238 ==> メグマ沼 R238 ==> 大沼 R238 ==> 稚内港 (フェリー) ==> 利尻島
==> 姫沼(利尻島)
 (注) 道路番号の「R」は国道、「D」は道道

[ ウソタンナイ砂金採掘公園 ]
 北海道へ来て初めて晴れ上がった朝を迎えた。ホテルの東側は運動公園、北側にはサイクリングターミナルがあって、木立に囲まれた閑静なところだけに、窓の外からは小鳥の声が聴こえる。ウグイスの声に耳をとめると、まだ鳴き方の訓練が足りないのか、たどたどしい節回しの鳴声に思わず"音痴だなあ"と言ってしまった。キット今年生まれたばかりの幼鳥なのだろう。

 朝食は7時なのでその前に浜頓別から10kmばかり先の「ウソタンナイ砂金採掘公園」へ行ってみることにした。ウソタンナイ川一帯は、明治31年に砂金が発見されてから暫くの間、各地から大勢の砂金採掘者がやってきて賑わったそうで、その歴史を伝えるため昭和60年に公園が整備され、砂金の体験掘りを楽しませてくれる。今でも砂金が出るようで、平成6年には開園以来最大級の砂金が採掘されたという。

 そんな夢とロマンを感じさせてくれる公園なのだが、本来の目的である探鳥のほうはさっぱりだった。ガイドブック「日本の探鳥地・北海道編」によれば、今の時期には "キビタキ、カワガラス、ルリビタキなどを見ることができる" と書いてあったので期待も大きかった。しかし、川辺を歩いてみても鳴声すら聴こえずガッカリ。

 周辺を車で走ってみても、聴こえるのはウグイス、ムクドリの声と、遠くの方で鳴くカッコウぐらい。川岸の近くに来たらウグイスが梢に止まって囀り始めた。今度は歌い方も立派で声も綺麗。鳴声を頼りに木の葉に隠れている姿を見つけてなんとか撮影できた。しばらく散策して2,3の花を撮った後ホテルに戻った。

ウグイス シャク シャク ノビネチドリ

[ クッチャロ湖 ]
 クッチャロ湖は、大沼と小沼が水路で繋がって瓢箪型をした海跡湖で、周囲27kmもの広さがある。この湖は、日本最北の湖であるとともに、なんと言っても「白鳥の湖」として有名で、春秋の渡りのシーズンには2万羽ものコハクチョウが群れる。平成元年には、国内第3番目のラムサール条約(「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」)登録湿地として指定された。

サイクリングターミナル近くの湖岸から見たクッチャロ湖


 道東の「屈斜路(クッシャロ)湖」もクッチャロ湖とその語源は同じで、アイヌ語の「トー・クッ・チャロ---沼から水の流れ出る口」という意味である。何故かこちらの方だけはカタカナの名前になっている。季節にもよるのだろうが、風景的にはこれといって特徴があるわけではない。何かポイントになるものを、と花を前景に添えてみた。

[ ベニヤ原生花園 ]
 ベニヤ原生花園は、クッチャロ湖の北を走る国道238号線とオホーツク海の間にある330haの広大な花園で、クッチヤロ湖と同様に昭和43年、北オホーック道立自然公園に指定されている。6月から9月にかけてはハマナス、エゾカンゾウ、ヒオウギアヤメを初め100種以上の高山植物と湿生植物が観察できるという。


 原生花園入り口の駐車場には展望台が設けられており(写真左)、園内中心部を蛇行しながら流れる小川や草原、湿原、オホーツク海の砂丘などを一望することができる。
 小高い砂丘を越えて海岸に降りてみると、名実共にオホーツクブルーと呼ぶのに相応しい真っ青な海が果てしなく拡がっている。何度見てもオホーツクの海の風景は素晴らしいと思う。

 私が訪れたときは花の盛り時期には少し早かったとみえて、咲いている花も昨日のシブノツナイ湖やオムサロ原生花園とあまり変わりがなく、ここでもハマナスには出会えなかった。

ミツガシワ ハクサンチドリ エゾタンポポ スズラン ハマウツボ

オオバタチツボスミレ オオカサモチ ミヤマキンポウゲ ハマハタザオ

 もちろん、ここでも探鳥をしなかったわけではなく、前日と同様鳥の撮影はむしろ花に優先するものであった。花と同じように、地形が似たところでは生息する鳥の種類も似ているのが当然で、草原性の鳥がほとんど。この時期、北海道の原生花園で見られる代表的な鳥といえば、これらの鳥がご3家がなのかもしれない。

コヨシキリ 

オオジュリン

オオジュリン

ノゴマ


 掲載した写真の数はそれほど多くはないが、ベニヤ原生花園ではたっぷり時間を費やして、思う存分撮影を楽しむことができた。それというのも、今日の予定は宗谷岬(アイヌ語:宗谷---ソー・ヤ---岩の岸)から利尻島へ渡るだけであったし、途中、是非とも立ち寄ってみたいと思うところも見当たらなかったからである。後は、車を走らせていて目に止まったところだけを適当に見て回るだけという気楽なスケジュール。

 午前11時を少し回ったところでベニヤ原生花園とも別れを告げ、次の目的地「宗谷岬」へと向かった。目的地までは60km弱の距離。考えてみれば、昨日からまともな昼食をとっていない。それもそのはずで、今までの立ち寄り先には食堂はおろかコンビニすらないところばかり。どうしても食事時間が不規則になるが、決まった昼休み時間があるわけでもなし、空腹を覚えたときが昼休みでいい。

[ 宗谷岬 ]
 国道238号線は、相変わらず直線がつづく。20kmばかり走っただろうか、ポロ沼というところがあったので行ってみた。半円形をしたそこそこ大きな沼だった。地図を見ると、ところどころに「ポロ沼」「ポン沼」という文字が目に付くが、アイヌ語では近くに川がある場合、大きい方を「ポロ(親である)」、小さいほうを「ポン(子である)」と名づけたようである。

 それはともかく、沼そのものは見るべき花もなく、元の国道に戻る。しばらく行くと、「猿払公園」(アイヌ語:猿払---サル・プッ---湿地の川口)の看板に引かれて園内へ車を入れた。案内によると「日本最北端の道の駅」とある。ここまで来ると「日本最北端」という文字がやたら目につく。公園内には温泉などもあってノンビリできそうだが又の機会ということにしよう。

 ベニヤ原生花園を出てから1時間ほどしていよいよ宗谷岬に着いた。とりあえずガソリンスタンドに入って給油したら、領収書と「日本最北端の給油スタンド」と書かれた名刺ぐらいのカードに貝殻が2枚付いたものをくれた。ここでも「日本最北端」。

左:間宮林蔵の銅像、右:日本最北端の碑



 岬の先端には間宮林蔵の銅像が日本最北端の碑を見守っているかのように立ってていた。三角錐の形をした日本最北端の碑は北極星の一稜をモチーフにしたものだそうで、日没から夜明けまでライトアップされる。観光バスが到着する度に、碑の前は記念写真を撮る人が群がる。間宮林蔵(1780-1844)は、ユーラシア大陸と樺太を隔てる「間宮海峡」を発見し、日本人でただ一人世界地図に名を残した探検家として有名である。

 余談になるが、星にも間宮林蔵という名が付けられているものがある。1999年9月9日の夜、北海道札幌市在住のアマチュア天文家、渡辺和郎氏が発見した太陽を周回する小惑星で、1999年10月に登録番号12127番として正式にその存在が確認され、2001年1月9日Mamiya(間宮林蔵)の名をもってハーバード・スミソニアン天文台小惑星センターから世界に公表された。

 宗谷岬にはもう一つ碑がある。吉田弘作詞・船村徹作曲「宗谷岬」の歌碑で、楽譜と歌詞が刻まれている。1976年にNHK「みんなのうた」で取り上げられた。因みに歌ったのは千葉紘子ということである。
 歌詞は宗谷岬の情景を詠んだもので、メロディーはいかにも30年前の曲らしく、ゆったりとしている。

[ メグマ沼 ]
 宗谷岬を30分ぐらいで切り上げ、フェリー基地、稚内港(アイヌ語:稚内---ヤム・ワッカ・ナイ---冷たい水の川)へと向かう。フェリーの受付時刻までには2時間近く余裕があるのでどこな適当なところをと、ナビで近辺の地図を見ていたら稚内空港の傍に「メグマ沼」というところがあった。

 稚内空港への入口を少し通り過ぎると稚内カントリークラブというゴルフ場があり、クラブハウスのすぐ下に沼へ出る遊歩道が作られている。耳をそばだててみても、ウグイスの声しか聞こえない。沼の大きさは小さいが、散策できるように木道が敷かれている。

 木道を散策していると、陽の当たるところでは笹藪から逃れるようにして咲くスミレの仲間や、水生植物らしき姿が見られた。

タニマスミレ クルマバソウ
タニマスミレ ミツガシワ


 ここでの散策の間中、強風に煽られて木も花も大きく揺れ動くため、瞬間的に訪れる風の息を狙ってシャッターを切るという状態。花の種類も多くないので早々に引き上げた。

[ 大沼 ]
 大沼は、稚内空港から約5km西に位置しており、ガイドブックでも大沼のことが紹介されていた。ただし、それは冬季のことで、昭和62年からハクチョウに餌まきを始めたところ、徐々にハクチョウが飛来するようになり、現在では春と秋に約2万羽を数えるまでになったそうである。湖畔にはバードハウスが建てられており、ここからハクチョウの群れ遊ぶ姿を観察することもできる。

 大沼の北端に隣接して、「道立宗谷ふれあい公園」が設けられており、オートキャンプ場、自然散策路、パークゴルフ場などアウトドア施設が整備されている。また雨天でも楽しむことができるインドアガーデン、屋内遊技場も備えており、家族連れや若者にも親しまれているとのこと。

 バードハウスから沼を見ていたら、6月ではすでに北へ渡って居ないはずのハクチョウが2羽水面に浮かんでいる。ハウスの管理人にその理由を尋ねると、キタキツネに咬まれた怪我で飛べなくなっているのだという。現在、飛ぶためのリハビリをしているそうで、来年には故郷へ帰ることができるでしょう、とのこと。

 バードハウス近くの草原でしばらく鳥の撮影をしていたが、強い風は収まる気配もなく、ここでも早々に撮影を切り上げ、稚内港へと向かった。

バードハウス 大沼 飛べないハクチョウ
コヨシキリ ヒバリ オオジュリン

[ 利尻島へ ]
 これまでフェリーには何度も乗った経験はあるが、車と一緒に海を渡るのは今回が初めてのこと。「出港の30分前までには車検証を持参して受付を済ませてください。」と旅行社から聞いていた。どうして車検証が要るのか理由が分らなかったが、乗船申込用紙を見て納得。車の「車番、高さ、幅」を書く欄があった。フェリークーポン券と往復の乗船券の引き換えを済ませて手続き完了。

 フェリーはすでに予約で満員だそうで、予め手配してもらっておいてよかった。そう言えば、利尻島・礼文島は6月からの観光シーズンにはホテルの確保が難しく、今回の旅行に際しても2ヶ月前に予約申し込みをしようとしたのだがすでにどのホテルも満室の状態であった。元々、宿泊先に拘りはなかったので、インターネットで民宿を探したらすぐに見つけることができた。

 15時30分、フェリーは定刻に稚内港を出港。1時間40分の船旅である。ちょっと残念に思ったのは、フェリーにはデッキがあって、海原を飛ぶ水鳥の撮影ができるものと思い込んでいたが、安全確保のためか、そうした構造にはなっておらず、止む無く船室で時を過ごすこととなった。

 船内の売店で「利尻 山の島・花の道」「礼文 花の島・花の道」「サロベツ 花原野・花の道」の3冊の本を買い求め、島の見所などの情報収集。そうこうしているうちに船は利尻島へ着いた。民宿へ電話をして到着を知らせると、港まで迎えが来ているとのこと。宿の旗を持って出迎えてくれた人に、少し散策したいので夕食は6時30分にしてくれるようお願いして、フェリー港から車で10分ぐらいのところにある「姫沼」へ向かった。

 利尻島(アイヌ語:利尻---リィ・シリ---高い山の島)は、サロベツの海岸線から利尻水道を隔てて約20km西の洋上に浮かぶ直径約15km、周囲63kmのほぼ円形をした火山島である。島の中央にはその形の美しさから利尻富士とも呼ばれる標高1,721mの利尻山が聳えている。島に山があるのではなくて、島そのものが山といったほうが分り易いかもしれない。

 利尻島には島を周回する道路が整備されており、道幅も思ったより広い。夕刻のためか、姫沼へ着いたときは観光バスが1台駐車していただけで、少し意外な感じがした。

姫沼に映った利尻富士


 姫沼は、周囲1kmほどの小さな沼であり、30分もあれば沼を一周することができる。周囲を鬱蒼とした森に囲まれていて、風を遮っていてくれるため沼は穏やかな表情で利尻富士の姿をくっきり水面に映していた。先程まで花を求めて散策していた団体客も帰り、沼には私ただ一人。森の中から聴こえるコマドリの声が、夕暮れ時を迎えた沼の空気の透明感を一層引き立てている。

 薄暗くなった散策路には白い花だけが滲むように浮き上がって見える。どれも小さな花だ。カメラのピントが合ったときに発するピーツという音だけを頼りにシャッターを切るのだが、ちゃんと写っているかどうか全く自信がない。露出を開放位置にセットしても、シャッタースピードは30分の1以下しか得られない。案の定、宿に帰ってから写真を確認したら手ブレでピンボケの山だった。

マイヅルソウ マイヅルソウの影 ツバメオモト
ダイコンソウ オオバナノエンレイソウ エゾノタチツボスミレ オドリコソウ

 こじんまりした民宿の楽しみは、夕食時、宿のご主人(おかみさん)や同宿の人との語らいにある。この日の宿泊客はほとんどが利尻山をめざす登山客で、ほぼ私と同年代。互いにお酒を酌み交わしながら、思い出話や山の情報交換などで楽しいひと時を過ごすことができた。

 島の夜は静かである。いつもと同じように使い切ったバッテリーを充電し、今日撮った写真をチェックしながら明日の計画を立てる。衣類の整理も随分慣れてきて手際がよくなった。早朝の出発に備えて今日も9時半に就寝。心地よい疲れの中で3日目の夜も静かに過ぎようとしている。

inserted by FC2 system