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道北の原生花園と島 〜〜 サロベツ原野 〜〜


6月17日(金) 晴れ

[ 行程 ]
豊富温泉 D84・D444 ==> 上サロベツ原生花園 D444・D106 ==> 幌延ビジターセンター
 ==> 長沼 ==> パンケ沼 ==> 幌延ビジターセンター  D106 ==> 天塩川河口 R232・D121
 ==> 北緯45度線通過地点標識 D121・R40・D972・D106 ==> 北緯45度モニュメント
 D106・D972・R40・D121 ==> 幌延 D121 ==> カモシカ牧場 D121 ==> 豊富温泉
 (注) 道路番号の「R」は国道、「D」は道道

[ 豊富温泉の朝 ]
 民宿のおかみさんはとても花が好きだそうで、宿の周囲には色とりどりの花が植えられている。サロベツ原野へ出かける前に庭を一回りしてみた。咲き終わったタンポポの綿帽子に夜露がびっしりついていて、朝日にキラキラ輝き、とても綺麗だった。庭の池には朝霧が立っていて背景の山や針葉樹を写し込み、ちょっと幻想的な雰囲気。

民宿の池の夜明け


 庭の花といっても、さすが北海道だけのことはあって、クロユリ、ルピナス、スズランなど普段あまり見られない花が沢山咲いていた。

ルピナス   ツルニチニチソウ スズラン
ホタルカヅラ シバザクラ 園芸種のスミレ クロユリ

 豊富温泉は、温泉街らしきところはほんの僅かで回りは山に囲まれている。川の近くまで行けば鳥がいるような気がしたので朝食までの間、散歩がてら(車に乗って)探鳥に出かけた。ところが5kmぐらい山路を走っても全く鳥を見かけない。これ以上走っても仕方がないので途中にあった牧場に立ち寄って宿に引き返すこととした。

[ 上サロベツ原野 ]
 いよいよ今回の旅行でも大きな楽しみの一つであったサロベツ原野(アイヌ語:サロベツ---サル・オ・ペツ---葦原を流れる川)へ向かう。宿からは15km足らず。8時には現地に着きそうだ。

 サロベツ原野はサロベツ川の流域に広がる原野で、東西5〜8km、南北28kmに渡って拡がり、面積は約23,000haもの広さがある。ここもオホーツクの原生花園と同様に、海岸に打ち寄せる波によって砂丘が出来、海水の流入が閉ざされて湿原が形成されたものである。昭和49年、「利尻・礼文・サロベツ国立公園」として日本最北端の国立公園に指定された。

 原生花園では、初夏から秋にかけて約100種にも及ぶ湿原植物などの花々が咲くという。また、ここはオオジシギ、キマユツメナガセキレイ、アカエリカイツブリなど他の地方ではあまり見られない野鳥も数多い。

 最初に車を止めたのは、道道444号線のほぼ真ん中「上サロベツ原生花園」に位置する「サロベツ原生花園自然教室」。原生花園と植生についてのパネルなどが展示されており、2階には展望室もある。建物の直ぐ南側に原生花園を探索するための木道が敷かれている。

 車を降りて木道にさしかかったら、突然ザザァーとい奇妙な音が空から聞こえてきた。見上げると鳥。オオジシギの羽音だったのだ。そんな鳥がいるということは本で読んで知っていたのだが、実際にその音を聴いたのは初めてで、少々驚いた。あんなに遠くにいても羽音が聴こえるなんて、どうやって飛んでいるんだろう。

 木道を歩いてみて、周囲に見えるのは笹ばかり。どうやら地下水位が低下したため、土壌が乾燥し、笹が進入してきたのが原因のようだ。ここではワタスゲ、ツマトリソウなどが僅かに咲いていただけで見るべき花が少なかった。そういえば観光客の姿もあまり見ない。木道を半周ぐらいしたところで車に戻り、次の目的地「長沼」に向かった。

[ 長沼 ]
 海岸砂丘上の道道106号線は、「オロロンライン」とも呼ばれている。オロロンとは海鳥のウミガラスの別名であるオロロン鳥のことで、「オルルー、オルルー」と鳴くことからこの名がついた。我が国では北海道天売(てうり)島で繁殖し、冬期間は本州中部以北の海上で見られる。さて、車はオロロンラインを一路南へ走る。海の向こうには今日も利尻富士が青空の中にくっきり見えた。

稚咲内付近から見た利尻富士


 時々車を止めて砂丘を見ると、ノビタキとキマユツメナガセキレイを見かけるが、あまり広くない道路のうえ、ダンプカーがよく通る道なので駐車するわけにはいかず、眺めるだけとした。

[ 下サロベツ原生花園 ]
 稚咲内(わかさかない)から道道972号線に入り、4kmばかり走ると幌延(ほろのべ)町(アイヌ語:幌延---ポロ・ヌプ---広い原野)の下サロベツ原生花園「幌延ビジターセンター」がある。2階建の立派な建物で、室内もゆったりしている。建物の東側から「自然学習歩道」と名づけられた1周約1kmの木道の自然探勝路が敷かれ、湿原の植物が観察できるようになっている。

 木道を歩くと、ところどころに絵入りの解説板が設けられており、植物の名前と説明が書かれている。親切な配慮で有難い。ここでは水生植物を中心に見ることができる。

イソツツジ エゾカンゾウ ハクサンチドリ ミツバオウレン ホロムイイチゴ
ワタスゲ ワタスゲ スミレ ヤマドリゼンマイ パンケ沼への道


 自然探勝路の東側には細長い沼があり、その名も「長沼」。原生花園にはハンノキがところに繁っていて、鳥たちの休憩場所になっている。キマユツメナガセキレイは物怖じしないのか、かなり近づいても逃げようとはしない。ここではその美しい姿を堪能できた。

 キマユツメナガセキレイ
キマユツメナガセキレイ

 長沼の辺にはズミ、ノリウツギなどの樹木のほか、カキツバタなどの花がまだ咲いていた。ここでの主役はやはり草原のジャズシンガーのコヨシキリ。アチコチで賑やかに囀っている。時々木立の方からノビタキもやってきて、遠慮がちに囀りを聴かせてくれた。

長沼 カキツバタ コヨシキリ

ノビタキ

イソツヅジ ツマトリソウ ズミ ヤマドリゼンマイ

[ パンケ沼 ]
 サロベツ原生花園には大小の沼がいくつもある。その中でも最大の沼がパンケ沼、次いでペンケ沼である。アイヌ語では近くに川がある場合、大きい方をポロ(親である)、小さいほうをポン(子である)というように、ペンケが川上の(上の)パンケが川下の(下の)を意味する。サロベツ川を見てみると、確かに上流側にパンケ沼、下流側にパンケ沼がある。

 幌延ビジターセンターから長沼の西側の木道に沿って3kmほど北へ行くとパンケ沼がある。距離を考えると、歩くのは大変なので迷ったが、せっかくここまで来たのだからと、意を決して行くこととした。長沼付近のヤマドリゼンマイの群生地を抜け、ものの5分も経たないうちに、路の両側は一面の笹薮となった。

 ここでも乾燥が進んでいるらしい。そういえばビジターセンターでもらった「湿原の自然案内・セルフガイド(環境省作成)」によると、ヤマドリゼンマイは湿原の指標植物で湿地と乾燥地の間に成育し、その増減が乾燥化の目安となるのだという。上サロベツではヤマドリゼンマイをほとんど見かけなかった。ということは、サロベツ原野全体が乾燥し、かっての美しい姿を失ってしまうのだろうか。

 6月半ばともなると陽射しは強い。気温はそれほど高くないのだが、それでもじっとりと汗が滲んでくる。元来、帽子とか眼鏡が嫌いな私は、紫外線を避けるための防御を全くしていない。連日の好天気で顔も腕も真っ黒に日焼けした。

 パンケ沼の少し手前に小沼という文字通り小さな沼がある。ここにはアカエリカイツブリがいるとのことだったので寄ってみたが水面にはそれらしき鳥の姿は見えない。変わり映えはしないがコヨシキリがいたので撮影。暫く歩くと、少し開けたところに出た。ようやくパンケ沼。ところが、ここでも鳥はサッパリ。花も今までと大して変わらないものだった。

小沼 コヨシキリ パンケ沼

 パンケ沼の水は、茶色っぽく濁っている。沼の岸辺の土が溶け込んでこんな色になったようで、透き通った神秘的な沼を想像していたのにちょっとガッカリ。沼越しに南の方を見ると風力発電の風車が横一列に並んで壮観だった。30分ぐらい沼の周りを散策した後、今来た路を引き返した。

 ビジターセンターで休憩してから外へ出ると、空があまりにも綺麗だったのでセンターの前で利尻富士の写真を1枚撮った。風景といっても目の前にはただ広大な原野が続いていただけなので、どうしても山が真ん中に入ってしまっている。我ながら工夫が足りないのを感じた。後で考えたら、センターも一緒に写し込めばよかったのだ。

 まだ時刻は午後2時を回ったばかり。宿へ帰るにはまだ時間が早いので、天塩(てしお)川河口へ寄ってみることとした。探鳥ガイドには、水鳥などが居ると書いてあったが、6月中旬では季節外れであまり期待できない。オロロンラインを更に南へ向かって走って行くと、道の左側に風車が30基ほど並んでいる。さっきパンケ沼で見た風車のようだ。

 今の時期はどこの牧場でも干草ロールを作っている。刈り取りが遅いと草が硬くなってダメなようで、今ごろが刈り込みに適した季節のようである。天塩川河口の手前でも、牧場があって乾燥させた干草を黒や白のポリシートに包んでいるところを見ることができた。北海道ではもうすっかりお馴染みになった風景である。

 天塩川(アイヌ語:天塩川---テ・オ・ペッ---梁(やな)のような形の川)は、上川郡朝日町の天塩岳(1,558m)にその源を発し、河口までが256kmと全国第4位の大河である。サロベツ原野の南端、幌延町字浜里でサロベツ川と合流し、日本海に注ぐ。

 河口に着いてみると、一帯は工業地帯のようで、とても鳥が住み着くような所ではなく、現に海を見渡してもウミネコが数羽飛んでいただけで、かなり殺風景なところであった。海岸端まで歩いてみたが何もいないので早々に出発した。帰路はゆっくり走りながら適当なところで寄り道をするつもり。

 国道232号線から道道D121号線へ出て、幌延駅の少し手前にさしかかったとき、道路脇に「北緯45度通過点」の標識があった。車から降りて写真を撮っていたら、70歳前後の女性の旅行者から "ここが北緯45度のモニュメントでしょうか" と尋ねられた。"標識には確かに北緯45度通過点と書いてありますが・・・" と答えると、"どうも違うようなんです" と言って薄いパンフレットを私に見せた。

 よく見ると、写真にあるモニュメントと全く形が違っており、所在を示した地図に書かれた位置もここではなく、サロベツ原野の西の稚咲内とある。"この場所は海岸ですね。ここから車で15分か20分かかりますよ。" と言うと、"そうでしたか・・・タクシーでここまで来たんですが・・・" と、途方にくれた表情だった。

 時計を見ると3時を少し回ったところ。この先、これと言って予定も無いし、自分も見てみたいと思ったので、"よろしかったら、車で連れて行ってあげましょうか" と言うと、嬉しそうに "お願いします" とのこと。モニュメントのある場所は、今日通ってきた道の途中だったのだが、事前に得た情報には無く、走っていても気が付かなかった。

 国道40号線から幌別ビジターセンターを経由して、オロロンラインを右に曲がってすぐ、海岸側に「N」の形をしたモニュメントがあった。そこには北緯45度線通過点であることを記した記念碑が添えられている。シンプルなデザインなので、これでは気が付かなかったのも無理はない。同乗の女性も盛んにシャッターを切っていた。

 JR幌延駅まで送る途中の会話では、彼女は一人で日本の南は沖縄・屋久島、北は北海道と方々を旅しているらしい。歩き方もしっかりしていて、こんなふうに元気に歳を重ねていけたらいいな、と思った。

 この後は宿へ帰るだけ。再び道道121号線に戻り、豊臣温泉に向かう。山間に公園のようなところがあったので看板を見てみると「カモシカ牧場」と書いてある。中に入ると、建物の裏側には牧場があって、柵の中にカモシカが放し飼いされている。実物を見ると鹿より遥かに大きい。細い道を挟んで右手に花壇が作られ、珍しい青いケシの花が植えられていた。

青いケシ

カモシカ牧場     キクバクワガタ

 夕食までどうやって時間を潰そうかと考えていたが、帰る途中のハプニングや道草で宿に着いたら6時近くになっていた。今日は10kmぐらいは歩いただろうか。それでもあまり疲れていないのは不思議。サロベツ原野は想像していたより物足らない結果に終わったものの、久々にハイキング気分を味わうことができた。

 いよいよ明日は最終日。リュックとカメラバッグの中を整理し直し、カメラのバッテリーを充電して、帰る準備が完了。明日もこのまま天気が続いてくれることを祈りつつ、眠りに入った。


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