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道北の原生花園と島 〜〜 原生花園の鳥 〜〜


6月13日(月) 曇り

[ 行程 ]
サロマ湖 R238 ==> シブノツナイ湖 D ==> コムケ湖 R238 ==> オムサロ原生花園 R238 ==>
千畳岩 R238 ==> クッチャロ湖(浜頓別)
 (注) 道路番号の「R」は国道、「D」は道道

[ ホテルの朝 ]
 午前4時、携帯のアラーム音で起こされた。朝食までには2時間以上余裕があるのでホテルの周りを散歩することとした。空はどんよりと曇り、鉛色をしたサロマ湖には漁に出る舟がゆっくりと沖合いをめざしている。ホテルの東側は鬱蒼とした森になっており、木々の間からは色々な鳥の鳴声が聴こえ、朝の清々しさを一層引き立てている。

 夜が明けたばかりのヒンヤリとした空気を味わいたくてカメラを手に湖岸に降りてみると、草の葉に昨夜の雨が小さな水玉に形を変えて残り、風に揺れて時折キラリと輝く。目にする草花は海浜性植物に見られるようにどれも背が低く、砂地を這うようにして生えている。

ハマハコベ ハマエンドウ 草の葉の水滴

 僅かな時間写真を撮っていただけなのに、ズボンの裾は草の雫を吸い込んでグッショリ濡れてしまっている。森に入る細い路があったので、鳥の声に誘われて急な坂を登ってみたが、声はすれども姿は見えず。葉隠れの術でも使って身を隠しているのかな?。足元に目を落とすと小さな白い花が路の脇のあちこちに咲いていた。

クルマバソウ タチツボスミレ マイズルソウ オドリコソウ

 2時間ほどホテルの周りを散策した後、昨日お願いしておいた6時半に朝食を済ませ、最初の目的地「シブノツナイ湖」へと向かった。

[ シブノツナイ湖 ] 
 国道238号線はオホーツク海に沿って走るところから「オホーツクライン」とも呼ばれている。「オホーツク」もてっきりアイヌ語かと思っていたら、ツングース語の「オカタ(川)」が「オホタ」に変化し、それにロシア語の「スク(町)」がついてオホーツクとなったとのことで、元来は町の名前であったが、海の名に転用されたものという。

 シブノツナイ湖はサロマ湖から238号線を北西方向に12kmほど走ったところにある。湖の真ん中を境に西側が紋別市(アイヌ語:紋別--モ・ペッ--流れの緩やかな川)、東側が湧別町(アイヌ語:湧別--ユベ--鮫(鮭のこと)を意味し、鮫が多いところから名付けられた。)に分かれている。例によって湖の名の語源を調べてみたのだが残念ながら見つけることができなかった。

 この湖は面積3平方qで、オホーツク海沿岸によくある砂嘴(潮流によって運ばれた砂礫が長年月にわたって堆積したもの)によって海と隔てられた海跡湖である。水鳥などが多く生息していることから鳥の楽園とも呼ばれている。また、植生が豊かなところから環境省が定めた「日本の重要湿地500」にも選ばれている。 

 湖岸には辺り一面センダイハギが黄色い花を咲かせていた(右の写真)。湖岸道路に入ったとたん、小鳥たちの囀りが耳に飛び込んできた。一番大きな声で我が物顔に囀っているのは、その鳴声の華やかさから「草原のジャズシンガー」の異名を持つコヨシキリ。湖岸の葦原のいたるところで声の美しさを競っていた。
 ちょっと聴きなれない声がしたので声のする方を目で追ってみると、なんとオオジュリン。これだけの至近距離でオオジュリンの夏羽のオスを見たのは初めてのことで、少し興奮気味。


オオジュリン(オス) 

カワラヒワ


 湖岸の木は強い風に晒されるためか、どれも背が低い。梢にはノゴマ、ノビタキなど、今の季節本州では山地の高原でしか見られない鳥がここでは普通に生息している。やっぱり北海道だ。

ノゴマ(オス)

ノビタキ(オス) 

コヨシキリ 


 湖の写真を撮った辺りではベニマシコが群れ遊ぶ姿も見かけたのだが、一瞬のうちに飛び去ってしまい、残念ながらカメラに収めることができなかった。釣り逃がした魚は大きいという例えのとおり、真っ赤な色をした美しいベニマシコは今でも脳裏にその姿が焼きついている。

 湖岸道路を探鳥しながら歩いていたら、老年の域にさしかかったバードウォッチャーに「シマアオジは来てました?」と声をかけられた。「見なかったですねぇ」と答えると、「今年は春先から寒いからねぇ、もう来てもいいころなんだけど遅れてるね」とのこと。土地の人でも出会っていないのだから道理で見かけないわけだ。

 シマアオジは年々その数が減少しており絶滅の危機に瀕しているという。哀愁を帯びた鳴声が人の心を捉え、姿も美しい。北海道へ来たら一目なりともその姿を見たいものだと、出会いを楽しみにしていたのだが、ここではどうやら望みが叶えられそうもない。

 シブノツナイ湖ではノゴマやオオジュリンをたっぷり観察することができて大満足。2時間半ぐらい経ってからすぐ西隣にある「コムケ湖」(アイヌ語:コムケ--コムケ・トー --曲がった沼)へ向かった。湖畔のキャンプ場にある駐車場に車を止めて暫く散策。花らしい花が咲いていなくてがっかり。(写真左上:ツマトリソウ、左下:オオバナノエンレイソウ)。

 キャンプ場の林を歩いてみたり、コムケ湖周辺を車で走ってみたけれど、それほど鳥がいる様子もない。この湖は冬になるとハクチョウなどの水鳥が多く飛来することで有名なのだが、どうやら冬鳥と夏鳥との狭間の季節に当たってしまったようだ。

 出発前に調べたところでは、コムケ湖の湖岸道路はオホーツクから打ち寄せる波に浸食されて年々削り取られ、一部分車両通行止めになっているとのこと。湖岸道路での探鳥を止む無く変更して国道238号線に戻る。

 コムケ湖から次の目的地「オムサロ原生花園」までは約22km。ほぼ西北に一直線の道路で道に迷うことはない。交通量も少なく、快適な道だけについついスピードが出すぎてしまうので、ときどきスピードメータをチェックする。

[ オムサロ原生花園 ]


 オムサロ原生花園の語源は、この稿をアップし終ってから、北海道にお住まいのネット仲間がわざわざ紋別観光協会にその由来を問い合わせてご連絡いただいた。それによると「アイヌ語で オ・・川尻 ム・・ふさがる サル・・葦原 葦原がふさがる川尻と言う事なのですね。あの光景はまさしくその光景かもしれません。」ということでした。感謝、感謝。

 オムサロ原生花園は紋別市の北西に流れる渚滑川を挟んだ海岸線1kmにわたって続く広大な花園である。紋別市のホームページによれば「真紅のハマナスをはじめとする約50種もの美しい原生の草花がみる人を魅了します。」とあったので、花が咲き乱れる草原をイメージして期待していた。

 シブノツナイ湖、コムケ湖と同様にここでも目につく花はセンダイハギとハマエンドウ。やはり花が遅れていてハマナス、エゾカンゾウ、ヒオウギアヤメといった北海道ならではの花を見ることができなかった。しかし、入り口近くに造られた庭園は周囲の風景とマッチして静かな雰囲気を醸し出している。この辺りでは特にノゴマが多く見られた。

オムサロ原生花園

レンゲツツジ

ハマエンドウ


 昼食を済ませてオムサロ原生花園に着いたのは午後1時。この時間帯、普通、鳥たちは葉陰に隠れて姿を見せないのであまり期待はしていなかった。ところが嬉しい誤算で、ここでもオオジュリン、ノゴマ、ノビタキをたくさん見ることができたのは意外だった。おまけに、珍しくヒバリが木に止まっている姿まで撮影することができた。

 鳥の種類はシブノツナイ湖とあまり代わり映えしないが、せっかく撮った写真なのでそのいくつかを掲載しておいた。ところで、写真を整理していて気がついたのだが、デジカメはオオジュリンのようにボヤッとした輪郭の被写体は苦手なようで、撮影時にはピントが合っていたつもりなのに結果はどれもボケ気味に写ってしまった。残念!。

オオジュリン(オス)

ノゴマ(オス)

ノビタキ(オス) ノビタキ(幼鳥)

カワラヒワ(メス?)

ヒバリ


 オホーツク沿いの原生花園では常に潮騒の音を耳にすることができる。潮風がのせてきた磯の香に誘われて小高い段丘に登って海を見ていたら、遥か沖から白波が岸辺に打ち寄せ、幾重にも大きな弧を描いては砂浜に消える。いつまで観ていても飽きることのない風景である。

 昼を過ぎて少し気温は上がってはいるものの、吹く風はまだ冷たい。それもそのはずで今朝の気温は9度。ホテルを出るとき、少し厚手の長袖シャツにカーディガンをはおり、その上に山行きには必ず着ていく小物入れを兼ねたベストを着用と、防寒対策には充分の身拵え。空は相変わらず曇っているが、心もち明るさを増しているように見える。

[ クッチャロ湖へ ]
 時計は午後3時を少し回ったところ。そろそろ出発の時刻だ。予定のスケジュールではこれから宿へ向かうだけとなっている。クッチャロ湖(アイヌ語:クッチャロ--クチャラの訛りで湖の出口の意味)のある浜頓別(アイヌ語:頓別--ト・ウン・ペツ--沼に入る川 の意味だが海岸にあるので浜頓別とした)まではおよそ120km。ゆっくり走っても2時間あれば充分なので、風景を楽しみながらノンビリ走るとしよう。

 再び国道238号線に出て、30分ばかり走ると右手の畑から霧が漂っている。よく見れば霧ではなく、雲間から日が射すようになって気温が上昇し、昨夜の雨で湿った畑から水蒸気が立ち昇っているのだった。道の左側は菜の花が満開で畑一面を黄色に染めていた。

畑からの水蒸気 菜の花 菜の花畑
 
 山側の視界が開け、延々と連なる丘には牧場が点在している。写真を撮っていたら牛が興味深そうにじっとこちらを見ていた。道は北西方向に真っ直ぐ伸び、行き交う車もなく、ラジオを聴きながらただひたすら車を走らせる。

 同じ風景ばかり延々と続くので、枝幸(えさし)町(アイヌ語:枝幸--エ・サ・ウシ・イ--頭を浜にいつもつけているもの、つまり岬のこと)の港があるところにさしかかったので気分転換に海岸に出てみることにした。ここでようやく赤い花にお目にかかった。

枝幸町付近の海岸 サクラソウ エゾノツガザクラ

ホタルカズラ


 枝幸港からほんの少し走ると道路脇に立てられた「ウスタイベ千畳岩」の案内看板が目に止まった。旅行社からもらった北海道地図に名前は載っているものの、それについての説明はない。今日の目的地、浜頓別までは残り30km。時刻は5時。ということでちょっと立ち寄ることにした。

 岬の先端に着くと、ドドーッと岩に打ち寄せた波が砕け散る音がする。岬は高い崖になっており、下を見ると暗褐色をした大きな岩がゴツゴツと階段状に突き出ている。"なるほど、千畳というのはテラス状になった岩のことか"と直ぐに納得できた。崖には下に降りることができるかなり急な階段が設けられている。

 足を踏み外さないよう慎重に降りる。途中、岩のテラスで今回の北海道旅行で初めてのエゾカンゾウ(ゼンテイカ)を見つけた。よくもこんな岩場に咲いているものだと感心しながら早速写真撮影。形はこぶりだが過酷な風雨に耐え抜いてきたせいか、わずかに吹き残った土にしっかりと根を張り、花に勢いがある。

千畳岩 エゾカンゾウ

 もう少し岩に砕け散る波のしぶきを見ていたかったがホテルのチェックインの時間が迫ってきた。元の道に戻って、もう間もなくクッチャロ湖というところで海岸線を見ると、夕暮れの空に雲が低く垂れ込め、そこに岬の岩がシルエットになって浮かび上がっている景色が目に入った。


 高校を卒業したばかりの頃、所属していた合唱団で「南太平洋」というミュージカルをオーケストラの伴奏で唄ったことがある。本邦初演ということでプロのソロシンガーと一緒に演奏できたことが今でも鮮明に記憶に残っている。かくいう私もその中に混じって水兵役で数秒間ではあったがソロをやらせていただいた。あのミュージカルの舞台となったバリハイ島のことを懐かしく思い浮かばせるような風景であった。

 後で調べてみるとどうやら「神威岬」であったようだ。撮影した場所は目梨泊岬。そのとき撮った写真がこの2枚。景色としてはなんの変哲もない平凡なものだが、これもその瞬間に心をよぎった記憶の証。

目梨泊岬の海岸 ウミネコ

 午後6時15分、予定の時間を15分遅れて民宿にチェックイン。遠くから見ると外観は"ほう!"と思わせたが近くに寄ってみると・・・・。

 なにはともあれ、宿に入って一風呂浴び、夕食時に飲んだ地ビールがおいしかった。この旅行中、早朝4時に起床が目標ということで、晩酌のビールは中ビン2本までと決めていたからなお更おいしかったのかも。

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