穂高連峰と大正池


 ふとしたことから友人と二人で上高地へ出かけることになった。友人もこのところ写真に熱が入っており、同じ趣味を持つ者同士ならばお互いに相手への気遣いも少なくて済む。目的地もスンナリと決まり、朝夕の景色を楽しむには平湯などの温泉地よりも上高地のエリアの中で宿泊したほうがよかろうということで、明神池の近くに宿を取った。

 今年は10月に入っても30度を超えるような暑さが残り、紅葉の時期が見極めにくい。インターネット情報などを見て、紅葉の状態に合わせて旅行日程を決めれればいいが、秋の紅葉シーズン真っ只中の上高地では出かける直前に宿を確保するのは難しいため、例年の紅葉時期やお互いの都合を考え合わせて10月13・14日の両日ということになった。

 上高地は今更ご紹介するまでもなく、3,000m級の山々が連なる穂高連峰を望む景勝地である。北穂高岳・涸沢岳・奥穂高岳・前穂高岳が屏風のように連なる涸沢カールの紅葉は特に有名で、一度は訪れてみたいと思っているがまだ望みを果たすことができない。今回は、その片鱗でも味わうことができれば、という想いでの山行き。

05年10月13日(木)
 自分一人だけの旅行であれば、多分、5時前後の出発となっただろうけど、今回は二人連れなので午前7時15分を集合時間とした。名神高速道路から中央自動車道を経て、長野自動車道松本I.Cから国道158号線に入る。上高地は乗鞍岳と同様、マイカー乗り入れ規制がなされているため、沢渡に車を置いてシャトルバスで現地に入る。

 このところ秋雨前線の影響でグズついた日が多かったが、幸運にもこの日は快晴。大正池でバスを降り、ここから明神池の近くにある宿まで撮影しながら散策する予定。大正池は土砂の流入により次第に埋まりつつあり、ところどころに中州ができているのはちょっと淋しい。しかし、水は清冽さが保たれ、今も変わることのない美しさを見せてくれる。

穂高連峰

向かって右の方から前穂高岳、奥穂高岳、西穂高岳が連なっている。


焼岳四景
噴煙が見えない 河童橋から 池にできた中州 ちょっと趣向

水のある風景

 上高地へ来てみて驚いたのは、木々がまだ青々としており、とても10月半ばとは思えないぐらいだった。今年は全国的に春先から花の開花が遅れたりして、例年のつもりで花や鳥を見に行ってもタイミングがずれてしまっている。上高地の紅葉もこの調子では10日ほど遅れて10月20日過ぎにようやくピークを迎えそうだ。出かける前は、青空に映える紅葉を前景に穂高連峰の雄姿をと、イメージは膨らんでいたのだが・・・

秋の面影
色づき始めの木々 モミジ マユミ ナナカマド

 梓川の辺を歩いていたら珍しい鳥に出会った。カワガラスである。この鳥は用心深くてなかなか目にすることができないので、まさかこんなに人が大勢通るところで見られるとは思ってもみなかった。水の中に頭を突っ込んで小魚をくわえたところを200mmの望遠ズームで運良く撮ったものだが、かなり大胆にトリミングしてようやくそれとわかる大きさになった。

アラカルト
カワガラス カワガラス 水草のバイカモ 六百山

 今日の宿泊は明神館。明神池からは、梓川に架かるつり橋「明神橋」を渡ってそのまま真っ直ぐ歩くと数分のところにある1軒宿。ここからは明神岳を真正面から見ることが出来る。部屋も明神岳に面しており、バルコニーに出て心行くまで撮影ができた。

明神岳の夕暮れ
明るい明神岳にも 次第に陽が落ちて 山肌が茜に染まり 夜の帳が降りる


05年10月14日(金)

 携帯電話のアラームが鳴って眼が覚めた。時刻は5時。外はまだ真っ暗だ。友人はよく眠れなかったらしく、既に起きていた。早起きしたのは探鳥に出かけるためなのだが、耳を澄ましても鳥の声が聴こえない。少し明るくならないと、と思って撮影準備をしながら時を待つ。5時半になったらうっすらと空が白みかけてきた。

 明神池の拝観は有料で6時半にならないと開門しない。それまでが探鳥の時間。しかし、一向に鳥の来ている様子がない。部屋から明神岳の写真を数枚撮り、探鳥は諦めて1眼デジカメと三脚だけを持って外に出た。山へ来るといつも感じるのは冷気の心地よさ。長袖のスポーツシャツにセーターとベストだけの軽装なのにそれほど寒さを感じない。

明神岳の夜明け
明神岳の朝焼 暖かそうな陽の光

 明神池の社殿の近くに来たら、クッ、クッという聞きなれたアカゲラの声が聴こえた。白樺に止まってドラミングをしていたがまだ辺りは薄暗く、例えデジスコを持っていても写すのは困難。熊笹からはアオジの地鳴きの声もする。林の奥の方にはシジュウカラも居るようだ。境内の小さなせせらぎには岩魚が1匹、流れに身を任せてじっとしているのが見えた。突然、太鼓の音がしたのでふり向くと、朝の勤行が始まったようだ。

明神池の朝
朝の勤行 池の朝 透き通った水面 岩魚

 開門とともに池の周りを散策した。池は浅く、透き通っていて底に水草がびっしり生えているのが見える。朝霧が立つのを期待していたが残念ながら全くその気配はない。オシドリのメスが2羽、岸辺近くで餌をあさりながらゆっくりと泳いでいる。時々、二の池の方からマガモのけたたましい声が聴こえる。しばらく池の周りを散策してから宿に戻った。

 上高地では色鮮やかな紅葉を見ることができず、このまま帰るのでは余りにも切ないので朝食を済ませてから乗鞍岳へ行くことにした。宿の娘さんに様子を聞いてみると昨日行ってきたばかりで、綺麗な紅葉が見れたとのこと。乗鞍岳は3,000m級の山、バスで2,700mの畳平まで行けばキット途中のどこかで紅葉しているはず。

 バスセンターまでは林間コースを歩いた。まだ早朝とあって道行く人も少なく、木々を吹きわたる風の音が山の静けさをいっそう強調しているようだった。朝の山の空気には独特の香りがある。山へ行きたいと思うのは、この雰囲気を味わいたいからかもしれない。

 河童橋の近くにあるバスセンターから再びシャトルバスに乗って沢渡へ戻り、乗鞍高原までは車で15分。畳平行きシャトルバスの発車時刻を聞くと3分後ということで大急ぎで切符を買い、滑り込みセーフ。車窓から外を眺めると、確かに上高地より紅葉していた。しかし、なんとなく美しさに欠ける。唐松はまだ緑がかっているし、白樺やダケカンバの葉は紅葉というよりも枯れかかっているという状態。

 ナナカマドも鮮やかさはなく茶色っぽい。畳平に近づくと森林限界を超えて唐松やシラビソに代わってハイマツが文字通り地を這うように生えている。その中に、葉を落としたナナカマドが真っ赤な実を鈴なりにつけていて、ハイマツの緑に映える。宿の娘さんの話とは随分ちがって、どうも紅葉はパッとしない。

乗鞍岳
乗鞍岳 お花畑のある所 畳平 白樺林

 畳平へ着いてから1時間ほど散策して、早々に帰ることにした。今年最初の紅葉見物は肩透かしに終わりそう。帰路は乗鞍高原から「上高地乗鞍スーパー林道」経由で中央自動車道中津川I.Cへというコースを取った。皮肉なことに、スーパー林道の沿道の木々が見事に紅葉しており、今回の旅行で一番見栄えがした。高速道路は渋滞もなく、6時半帰宅。




03年10月19日(土)
 乗鞍岳からの眺望は素晴らしい。今回は、2日目を風景の撮影に充てていた。当日になってみると、前述したように山は深い霧に包まれて風景はおろか、花もまともに撮れないぐらいだった。2003年10月19日に撮った写真だが、秋の山岳風景を掲載する。この年は秋の訪れが早く、紅葉の盛りは過ぎていたようだ。

山頂近くから中央アルプス方面を望む

左端は槍ヶ岳

穂高連峰

冬仕度のダケカンバ

紅葉風景(1) 紅葉風景(2) 紅葉風景(3)

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