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花の名山めぐり 〜 秋田駒ケ岳 〜


7月25日(水) 晴れ

[ 行程 ]
田沢湖高原 バス「駒ヶ岳線」 ==> 秋田駒ケ岳八合目 ==> 片倉展望台 ==> 阿弥陀池 ==> 男岳 ==> 駒池 ==> 大焼砂分岐 ==> 大焼砂 ==> 横岳 ==> 焼森 ==> 秋田駒ケ岳八合目 バス「駒ヶ岳線」==> 田沢湖高原 
 (注) 道路番号の「R」は国道、「K」は県道。道路番号がないところは徒歩。
  [周辺地図]


[ 秋田駒ケ岳のプロフィール ]
 全国に「駒ケ岳」と名がつく山は18座あるという。最高峰は南アルプスの甲斐駒ケ岳(2,966m)、次いで中央アルプスの木曽駒ケ岳(2,956m)で、秋田駒ケ岳(1,637m)は残念ながら会津駒ケ岳(2,132m)、越後駒ケ岳(2,003m)より下にその名前を連ねている。もっとも「秋田駒ケ岳」という名の山は存在せず、男女岳(おなめだけ 1,637m)、男岳(おだけ 1,623m)、女岳(めだけ 1,513m)を総称した名前で、深田久弥が日本百名山に選定すべきかどうかで迷ったという逸話のある山である。

 女性登山家・坂倉登喜子は「山があるからではなく、花があるから山に登るんです」と語ったそうだが、この秋田駒ケ岳は十和田八幡平国立公園の南端に位置し、花の名山として広くその名を知られており、頂上周辺の高山植物帯は国の天然記念物にも指定されている。今回、麓の田沢湖高原温泉に連泊して秋田駒ケ岳へ2回も足を運ぶこととしたのも「花の山」としての魅力に惹かれてのことである。 

男岳から阿弥陀池を望む。黄色の花はニッコウキスゲ。

 秋田駒ヶ岳は、秋田県と岩手県の県境に位置する八幡平火山群や岩手火山群などとともに東西約60km 、南北約50km の広い範囲にまたがる、我が国最大規模の火山群の一部を構成している。ちょっと固い話になるが、この山の現在の姿を理解するために、山の生成過程を見てみたい。

 秋田駒ケ岳は、玄武岩、安山岩質からなる二重式成層火山で、まず大量の火砕物と溶岩を噴出して火山体の主体となる成層火山(富士山のように中心火口から火砕物と溶岩が累積してできた円錐形の火山)が造られた。その後の噴火活動により山頂南西側の南部カルデラ、北東側の北部カルデラが形成され、現在の姿となった。因みにカルデラ(caldera・・・スペイン語で「鍋」という意味)とは、火山活動によってできた大きな凹地のことをいう。

 北部カルデラは、男女岳などの中央火口丘(火砕丘)や溶岩によってほとんど埋もれてしまい、今ではカルデラの形がよくわからなくなっている。南部カルデラには、女岳・小岳・南岳の中央火口丘(火砕丘)があり、それらからの溶岩流がカルデラ底を覆っているが、「金十郎長根」「横長根」と呼ばれる尾根筋が南部カルデラの外輪山であることをよく物語っている。男岳・横岳は、この二つのカルデラが接する外輪山のピークである。上述した火砕丘とは、爆発的な火山活動によって、火口の周辺に火砕物が積み重なった円錐形の火山体をいう。

[ あこがれの秋田駒 ]
 秋田駒ケ岳へは八合目まで車で行くことができるが、6月1日〜10月31日間の土曜日、日曜日、祝日(6月21日〜8月19日は毎日)はマイカー規制が行われている。6時少し前、バス停に着くとすでに20人ほどの団体がバスを待っていた。バスが来るまでの間に土産物屋の自販機で飲み物を仕入れてリュックに詰め込む。この日も雲ひとつない上天気で暑くなりそう。

 定刻の6時にバスが発車。標高650mの田沢湖高原温泉から標高1,300mの八合目までをわずか25分で運んでくれる。途中、平成18年にオープンしたばかりという「アルパこまくさ」で停車し、10人ほどの客が加わった。「アルパこまくさ」は、「自然ふれあい温泉館(日帰り温泉)」「秋田駒ヶ岳火山防災ステーション」「秋田駒ヶ岳情報センター」から構成される複合施設で、マイカー規制の拠点施設の意味合いも兼ねている。

 八合目から頂上へ向うには、片倉岳(新道)コース、シャクナゲコース、旧道コースの三つの登山道がある。片倉岳(新道)コースは、男女岳の山腹を巻くように登山道が設けられており、花の種類が多く、また景色も良いことから最もポピュラーなコースで、迷わずこのコースを選んだ。登山道入口から上を仰ぎ見ると、山の稜線がゆるやかなカーブを描いている。

 登山道の高度が上がるにつれて花の種類が増えてきた。ミヤマホツツジ、イワオトギリはいたるところに咲いている。トウゲブキは初めて見た花。ここでもウメバチソウが林縁に顔をのぞかせている。谷側の切り立った崖の上にはハクサンシャジンが周りの花たちを見下ろすかのように空に向けて背を伸ばしていた。

オニアザミ ハナニガナ ハクサンシャジン ウメバチソウ
トウゲブキ ミヤマホツツジ イワオトギリ ヨツバムグラ?

 7時30分、片倉岳展望台(1,440m)へ着いたところで朝食。前方を見るとニッコウキスゲの大群落の向こうに田沢湖がその全貌を現していた。空は美しく晴れ渡り吹く風が心地よい。周りでは登山客がしきりにカメラのシャッターを切っている。正に、嗚呼、絶景哉!。

片倉岳展望台から田沢湖を望む

 なだらかな道を進むと阿弥陀池に出た。ここはまるで花壇のように多彩な花が咲いている。周囲を見渡すと、お椀を伏せたような男女岳、切り立った荒々しい男岳、少しこぶりな女岳が池を取り囲むようにして聳えている。池のほとりを一回りして思う存分花を撮った。ここからはいくつかの登山コースがあり、さて、どちらに進もうかと迷ったが男女岳へ登るには時間がかかりそうなので、一番近くにある男岳に登ることとした。

エゾシオガマ ミヤマリンドウ ネバリノギラン アキノキリンソウ?
シロバナトウチソウ エゾシオガマ ヨツバシオガマ ニッコウキスゲ

 男岳(駒形山)は信仰の山で、男岳の頂上には駒形神社が祭られ、昔から「嶽参り」という登拝が行われていた。現在の「中生保内コース」というのが旧来の信仰登山のルートで、中生保内の麓から登り始め、南部カルデラ外輪山の南西端にあたる「御坪平横長根分岐点」を経て男岳に至るコースがそれである。秋田駒ケ岳の山名に男女を充てているのは男神・女神の信仰からきているものと考えられているそうだ。

 男岳の下にある「五百羅漢」という岩場が修験者の修行の場所で、駒形神社へ参拝してから「阿弥陀池」「大焼砂」「馬場の小路」などの霊域を巡って下山したと伝えられている。駒ケ岳の名は、文政7年(1824年)、佐竹北家藩主・義文が残した紀行文「養老紀行」の中で、『東に駒がたけといえる秀出あり、暮春の雪、駒の形に残れる名なるべし』と、山名の由来を記している。四月下旬から五月上旬にかけて、男岳の錫杖頭と呼ばれる岩塊から金十郎長根の東南斜面にかけて現れる馬の雪形を指してのことであろう。

男岳(駒形山)

[ コマクサの大群落 ]
 男岳を登り終えてから、男岳・横岳(1,583m)を繋ぐ稜線「馬の背」と女岳との間にあるカルデラの底部「馬場の小路」へ向った。最初は真っ直ぐ前を向いて歩くのが怖いぐらいの急坂で、木の枝や根っこにつかまりながら慎重に下る。斜面を降りきったところは平坦な道になっており、木道が敷かれている。しばらく歩くと、ツツジ類では最も美しいといわれるエゾツツジの群落に出会った。

エゾツツジ。周りは咲き終わって綿毛になったチングルマに囲まれていた。
ミヤマダイコンソウ ハクサンフウロ ミヤマカラマツ ウサギギク

 馬場の小路を歩くと、斜面に咲く花が場所によって、チングルマの群落、ウサギギクの群落、コマクサの群落と、綺麗に色分けされていた。小岳(1,409m)を過ぎ、大焼砂分岐(1,364m)で馬場の小路を抜けると秋田駒ケ岳のハイライト「大焼砂」に出る。ここには日本でも一、二を争うというコマクサの大群落がある。砂礫の道を横岳方面に向うとコマクサが広い斜面を埋め尽くすほどに密生して咲いていた。

シシウド チングルマの群落 ウサギギクの群落 コマクサの群落
上下の右端の写真でピンク色はすべてコマクサ。見事というほかない。

 帰路は「シャクナゲコース」を歩いてみることとした。大焼砂から横岳直下を経て「焼森分岐(1,540m)」の三叉路を左方へ行くと八合目に至る。右方の道をとれば「湯森山(1,472m)」から「乳頭山(1,478m)」へ続く道となる。こちらの道も魅力たっぷりなのだが、距離が長く、「無理をせず許す限り多くの山を訪れる」という今回の趣旨から外れるので次のチャンスに譲ることにした。

 帰る前に、明日の帰路コースに予定している「浄土平」がどんなところか、参考のために様子をみておこうと少し寄り道をした。阿弥陀池から少し下ったところにある「浄土平」はかなり広い湿原で、登山道の取り付きを降りて間もなくのところにヒナザクラが咲いているのを見つけた。明日は期待が持てそう。

イチヤクソウ タカネアオヤギソウ ヒナザクラ ヒナザクラ
キンコウカ シロバナニガナ オオバキスミレ チングルマ

 元の道に戻って八合目への道に入る。ここでもキンコウカ、オオバキスミレを見つけた。下りの山道ではこれまで見た花とあまり変わり映えがせず、花の種類も少ない。途中で飲み物が無くなってしまったのでちょっと辛かったのと、ジュース類だけだと甘ったるい味が後に残るので、明日は八合目の水場で湧き水を汲んでおこう。

 バスが高原温泉へ着いたのは午後4時13分。宿へ戻っておかみさんとしばらく雑談。"明日は少し足を延ばして「湯森山(1,472m)」「笹森山(1,414m)」近辺を回る予定です" と、コースの説明をすると、"あの辺りにはそれほど花が咲いてませんよ" との答えが返ってきた。花の季節には月に何度も山を歩いているという土地の人の話だけにコースを変更したほうがよさそうだ。

 "こんなことだったら今日は乳頭山まで縦走しておけばよかった" と思ったが後の祭り。結局、明日は阿弥陀池の周辺をもう一度ゆっくり散策し、男山〜馬の背〜横岳を経て浄土平から旧道コースで八合目まで戻ることに決めた。浄土平にはヒナザクラが群生しているところもありそうだし、運が良ければ沢の近くでシラネアオイも見られるというから楽しみだ。


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