プロローグ 陸奥への旅立ち 早池峰山 八 幡 平 秋田駒ケ岳 MENU
再び秋田駒ケ岳 栗 駒 山 月   山 蔵王・熊野岳 エピローグ HOME





花の名山めぐり 〜 早池峰山 〜


7月23日(月) 晴れ時々曇り

[ 行程 ] 
岳 K43 ==> 河原坊 ==> 小田越 ==> 早池峰山 ==> 河原坊 K43 ==> 落合大橋 K25 ==> 日詰 ==> R4.K46 ==> 斯波I.C 東北自動車道 ==> 松尾八幡平I.C K45.K23 ==> 八幡平温泉
 (注) 道路番号の「R」は国道、「K」は県道。道路番号がないところは徒歩。
  [周辺地図]

[ 早池峰山のプロフィール ]
 北上山地の最高峰・早池峰山は、標高1,917m。岩手県では岩手山に次いで第2位の高さを誇る。頂上付近で川井村、花巻市、遠野市と境を接し、西には毛無森(1,427m)、鶏頭山(1,445m)、中岳(1,679m)、東には高檜山(1,167m)、志和須森(1,088m)などが、東西10数キロにわって連山を形成している。

 早池峰山は今回訪れた山の中では唯一非火山性の山で、その誕生は4億年ほど前と、日本最古の山の部類に属する。全山が超塩基性の蛇紋岩やカンラン岩からなる地質は、エーデルワイスよりも美しいともいわれるハヤチネウスユキソウやナンブトラノオなどの固有種を生み出している。森林限界の標高1,300m以上の岩稜帯には約600種にものぼる植物が咲くという。

ハヤチネウスユキソウ

 早池峰の由来は、「山の頂に一つの霊池があって常に清水を八分ばかり湛えており、霖雨(長雨)でも溢れず、旱魃にも渇れない。これを不浄の器で汲めばたちまちにして涸れるが読経して祈ればまた速やかに湧き出す」と、早池峰山妙泉寺文書「開山普賢坊」にあり、「早池の泉」と呼ばれたともいう。

[ まだ見ぬ花を求めて ]
 午前4時。携帯電話が奏でる川のせせらぎで囀ずる小鳥の目覚まし音とともに目が覚めた。宿の自販機で飲み物を仕入れ、朝・昼二食分の弁当とともにリュックに詰め込む。4時半、外に出てまだ夜の名残が残る空を見上げると嬉しいことに上天気。山へ来ていつも感じるのは、早朝の冷気とほんのりと漂う木々や草の香が醸し出す空気の瑞々しさ。こればかりは都会では味わうことができない。

 宿のある大迫町岳地内から川井村江繋地内は6月10日から8月5日の土・日曜日及び祝日はマイカー乗り入れが規制され、登山口まではバスの利用となる。幸いこの日は月曜日なので、降り口となる河原坊登山口で車を駐車し、そこから出発点の小田越登山口までは林道歩き。道端に咲く花は地味な姿のものが多い。ゆるやかな坂道を40分ほど行くと小田越登山口に着いた。向かい側には薬師岳登山口がある。

ノリウツギ オニシモツケ

 早池峰山とその南に向かい合う薬師岳(1,645m)周辺は、昭和57年に早池峰国定公園の指定を受け、ともに高山植物の宝庫として知られる。早池峰山と薬師岳の山頂は直線距離にしてわずか3kmほどだが、二つの山は小田越を分水嶺として東と西に分かれて流れ下る薬師川と岳川の浸食によって削りとられた谷で隔てられている。蛇紋岩からなる早池峰山に対して薬師岳は花崗岩からなり、その植物相も大きく異なっている。薬師岳にはオサバグサの群落や早池峰山にはないイワヒゲが分布している。

早池峰山 薬師岳


 早池峰山への道は、標高1,250mの登山口からオオシラビソやダケカンバの混じる混交林の中を登る。5時40分、いよいよ登山道に入る。入り口付近は湿地帯となっているが木道が敷かれているので歩き易い。写真を撮りながら40分ほど歩くと森林限界となる一合目の御門口(1,300m)へ着く。ここで朝食のおにぎりをほうばる。野山で食べるものはなぜか美味い。

ヤマオダマキ マイヅルソウ ズダヤクシュ ミヤマカラマツ
ギンリョウソウ ヤマブキショウマ カニコウモリ マルバシモツケ

 登山道が森林限界を超えると視界が開け、眼に入る花もグッと高山植物らしくなってきた。ふと見るとアオノツガザクラのような葉の隙間から、濃い赤紫色をした花が一輪だけ顔をのぞかせていていた。一瞬、ヤマオダマキかなと思って近づくと、なんとミヤマハンショウヅル。今まで図鑑でしか見たことがなかっただけに、出会えたときは嬉しかった。

 そこから少し登ると、ミヤマアゲボノソウ、ホタルサイコ、ナンブトラノオ。これぞ早池峰というような花のオンパレード。撮影に夢中になってなかなか先へ進めない。早池峰山が花の山であることは山のガイドブックや花図鑑などから得た情報で知っていたつもりでも、いざ夏に向かって咲き競う花を目の当たりにするとそれが実感として伝わってくる。

ミヤマオダマキ ミヤマハンショウヅル ミヤマダイコンソウ ミヤマアケボノソウ
タカネサギソウ オンタデ ホタルサイコ ナンブトラノオ

 ところで、中部山岳の山では森林限界は概ね標高2,500m以上であるのに対して、ここ早池峰の緯度や気候から推定される森林限界は2,000m前後になると考えられている。しかし、1,300m付近ですでに森林限界に達しており、700mも低くなっているのはなぜだろう。不思議に思って調べてみると、その地質に秘密があった。早池峰ではカンラン岩が氷河時代の凍結破砕作用によって割られ、上部から次第に移動して1,300m付近まで岩塊がゴロゴロ散在する岩礫斜面を形づくっているため、亜高山針葉樹林の上昇を食い止めているらしい。

 カンラン岩塊。森林限界から上はこのような風景が続く。

 時刻はまだ8時半。たっぷりと時間がある。この頃になってガスが出てきた。あれほど晴れていた空が一瞬のうちにガスで隠されてしまうとは。山の天気の気まぐれも下山するまでの間だけは我慢してもらいたいものだ。幸い雨の心配はなさそうで、時折薄日が射す。むしろ撮影にはこのほうが向いているのかもしれない。そうそう、何事もプラス志向が肝要。

 高度が上がるにつれて花の種類も増し、写真を撮っているとキリがない。心は逸るのだがなかなかイメージ通りの写真は撮れない。花が咲いている周囲の環境も写し込みたいし、さりとてどんな花か分かるような大きさにしなければ、でも背景はスッキリしていないと美しくない・・・などと、あれこれ考えて撮ってみたつもりでも後で確認するといつもと変わり映えしないものになってしまっている。まだまだ修行が足らないなあ。

サマニヨモギ ナンブトラノオ ネバリノギラン タカネアオヤギソウ
イブキジャコウソウ イブキジャコウソウ コメツツジ ナンブトウチソウ
ホソバツメクサ チシマフウロウ タカネナデシコ ミヤマアズマギク

 そう言えば、登り始めてから前にも後ろにもほとんど人に会わなかったことに気がついた。この時期ならばもう少し登山客がいてもようさそうなのにと思って歩いていると、上から数人のパーティーが降りてきた。その中の一人に "河原坊から来られたんですか?" と声を掛けると、"小田越を登りに使うと河原坊からの下りがキツイですから" との答え。急斜面の下りで膝や爪先を痛めないため河原坊コースを上りに使ったとのこと。帰ってからホームページで早池峰山の各種登山記録を見てみたら殆どが河原坊コースを上りに使っていた。納得。

奇岩がそそり立つ山頂付近 

 五合目の「お金蔵」という名の四角い大岩を過ぎて龍ヶ馬場まで来ると少し道の傾斜が緩やかになった。この辺りも花の数が多い。岩場の道を更に進むと前方に「天狗の滑り岩」と呼ばれる巨大な岩壁があり、そこに架けられた鉄梯子を登っている人が見えた。いよいよ八合目にさしかかったのだ。

 写真ではよく分からないかもしれないが、鉄梯子は2段になっており、2段目は2本の梯子が並行している。傾斜はかなり急で途中で足を新踏み外したら一巻の終り。慎重に登る。

[ 山頂の花園 ]
 梯子場からしばらくすると稜線に出た。この辺りを「御田植場」という。かって、ここには早池峰の山名の由来ともなった「開慶水」という池があり、早池峰山の女神が山麓遠野の東禅寺の開慶に水を分けたので 半分になってしまったという伝説が伝えられている。

 こんな山の頂上近くに御田植場という名があるとは妙だなと思って調べてみると、人類学者・伊能嘉矩の著書「遠野のくさぐさ」の中に早池峰の七不思議というのがあって、その3に「御田植場の少乙女の声 頂上に近き平処の名。夜に入り少乙女の田植歌うたふ声聞ゆることありと言ひ伝ふ。」と記されている。これが名前の由来かどうかは不明だが興味深い話ではある。それはともかく、御田植場にはお花畑が広がっていていろいろな花が咲き乱れている。

お花畑 コバイケイソウ チングルマ ヨツバシオガマ
キバナノコマノツメ コイワカガミ チングルマ ミヤマカラマツ

 御田植場から左右に咲く花に見とれながらゆるやかな登りを20分ほど歩いただろうか、もう早池峰山の頂上に着いた(左は山頂の標柱)。山頂にあるという早池峰神社を探したら、なんとも味気ない鉄の祠。近くにあった石像のほうがよほど雰囲気がある。

 ただし、よく見ればこれは神社とは縁もゆかりもない代物で、碑文には「世界平和を願って・・・云々」と書かれている(写真:右)。

 頂上周辺ではチングルマの群生やキバナノコマノツメが岩にしがみつくようにして咲いている。いつものことながら、強風が吹きつのるような厳しい場所に健気に咲いている花を見ると "がんばってるなあ" とつい声を掛けたくなる。岩陰にはもう秋の花ダイモンジソウが咲いていた。

キバナノコマノツメ ナンブイヌナズナ ダイモンジソウ ミツバオウレン

 早池峰山にはハヤチネウスユキソウ、ナンブトラノオ、ナンブトウチソウ、ナンブイヌナズナ(北海道の夕張岳と日高山地の一部にも見られる)などの固有種のほか、ミヤマヤマブキショウマ、ヒメコザクラ、ミヤマアケボノソウなど、他の山では滅多に見られない花も生育している。花の名の「ナンブ」は岩手県を意味する。中でも有名なのは、ハヤチネウスユキソウで、これは早池峰を代表する花と言っても過言ではない。

 頂上でちょっと早い昼食。またまたおにぎり。周りには大勢の人が同じように昼食をとっていた。でも、食べ物はいずれもこちらより豪勢。ちょっぴり羨ましかったが贅沢は言っておれない。さて、一休みした後、いよいよ河原坊コースの下りに入るといきなりの急坂。膝を痛めないように無理せずゆっくり下る。

ハヤチネウスユキソウ ナンブトウチソウ ミヤマアズマギク ハクサンボウフウ
キンロバイ ハクサンチドリ ハクサンシャジン ナンブソモソモ

 岩塊の間を縫うようにして登山道が設けられているためか、小田越コースと比べると花の種類も数もやや少ない。森林限界の頭垢離(こうべごおり 1,350m)を過ぎると岩礫帯からコメバモリ沢沿いの道に入る。沢に降りて冷たい水で顔や手足の汗を流したらさっぱりした気分になった。沢筋を左に右に渡渉を繰り返しながら樹林帯の道を1時間ほど進むと車を置いてある河原坊登山口に着いた。ここでちょっと一息。

ミヤマヤマブキショウマ タカネニガナ ウスユキソウ アカショウマ
コカラマツ イワベンケイ センジュガンピ タマガワホトトギス

[ 八幡平へ ]
 時刻は2時半。河原坊から今日の宿泊地・八幡平温泉までは106km。ゆっくり走っても2時間の距離。
途中、宿に立ち寄ってお礼方々、無事下山した旨を告げた。昨日も通った県道43号線を西へ進み、岳川の早池峰ダムによって造られた早池峰湖に架かる落合大橋を渡って、今日は進路を右に取って県道25号線に入る。

 斯波インターから東北自動車道に入り松尾八幡平インターで降りる。今日の宿、八幡平温泉は、インターから10km足らずのところにあり、各種スポーツ施設と温泉がドッキングされた高原リゾートを売り物にしている。宿のご主人はいわゆる脱サラで、こじんまりとした民宿を経営している。庭で飼われている犬の名はゴン。奇しくも以前我が家で飼っていた芝犬と同じ名前だった。

 夕食時、明日は八幡平頂上近くの見返り峠へ車を置いて茶臼岳まで歩き、バスで見返り峠まで戻る予定と、コースプランを話したら、茶臼岳まで一緒に行ってそこで私の車を置き、ご主人の車で見返り峠まで送っていただけることとなった。そうすればバスを利用しなくても済み、時間を気にする必要もない。ここでもご主人のご好意に甘えることとした。またまた感謝!!。

 明日の朝食は6時。ゆっくりできるのでビールを飲みながらしばし歓談。窓の外には岩手山(2,038m)が間近に見え、絶景。今夜はゆっくり露天風呂に浸かって山登りの疲れを癒すこととした。


inserted by FC2 system