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花の名山めぐり 〜 陸奥( みちのく )への旅立ち 〜


7月22日(日) 晴れ

[ 行程 ]
中部国際空港 JAL3161 ==> 花巻空港 R4.K214.K102.R396 ==> 早池峰大橋 K43 ==> 落合大橋 K43  ==> 岳(早池峰神社)
 (注) 道路番号の「R」は国道、「K」は県道。道路番号がないところは徒歩。

[ 旅立ち ]
  「閑さや岩にしみ入る蝉の声」俳聖 松尾芭蕉が、みちのく・山形の山寺で詠んだ句である。近世では宮沢賢治、石川啄木などの創作の舞台となった土地。「みちのく」という地名には、なにがしか郷愁を呼び起こすような不思議な情感を覚える。「みちのおく」の語源が示すとおり、その昔、京の都から遥か離れた関八州の国より更に奥にあった陸奥(みちのく)には、見知らぬ地への想像を掻き立て、往時の人たちへの旅立ちを誘う魅力があったにちがいない。

 前々から一度は訪れてみたいと思っていた、みちのくの旅がようやく実現した。といっても、奥の細道を辿るものでも文人ゆかりの地をめぐる旅でもなく、ましてやグルメ目的の旅でもない。みちのくの名山をめぐり、未だ見ぬ花を求めての一人旅である。春先から企画を暖め、地図と首っ引きでコースプランを練って、まだ梅雨の残るさ中での旅立ちとなった。

 中部国際空港から飛び立つのが五度目ともなると、空港内にとりわけ珍しいものも見当たらないので、出発時間の1時間前に空港へ到着。まずチェックインを済ませて荷物を預け、カメラと山のガイドブックだけを手にして四階にある「ちょうちん横丁」で昼食と決めた。いつものことながらどこの店もよく混んでいる。この日は手打ち蕎麦が売り物の「紗羅餐」に入った。味は店が自慢するだけあって美味しいのだが、量がちょっと物足りない感じ。

  食事後、まだコーヒーを飲めるぐらいの余裕があったので、喫茶店に入ろうとするといずれも店内禁煙。最近はこんな店が増えて喫煙家は肩身が狭い。仕方なく自販機で缶コーヒーを買い求め、喫煙コーナーで侘しく時間つぶし。そろそろ真剣に禁煙を考えなければいけないか。

 飛行機はJAL3161便。定刻の11時55分を少しオーバーして空港を飛び立った。空は良く晴れている。航路へ向けての旋回に入ると、進む方向によって眼下に広がる海面の波頭がキラキラと輝く。平年であればもう梅雨明けの時季なのだが今年は一週間ほど遅れそうだという。この先、少し天気が気がかりだが予報では数日間晴れが続くようなのでそれを信じたい。

 目的地の花巻空港までは1時間15分のフライト。満席の機内を見回すと団体客に混じって老夫婦とみられる二人連れがチラホラ。近頃は野山へ花の撮影に出かけても夫婦連れをよく見かけるようになった。少子化で子離れする時期が早くなって夫婦だけの生活が長くなり、互いに共通の趣味を見つけて楽しむ人が増えたのかもしれない。

 機内放送が花巻空港到着を告げた。時刻は13時10分。預けた荷物を受け取り、レンタカーの受付窓口へ行くと係員が一人もいない。営業所へ電話で連絡すると5分もしないうちに迎えの車が来た。同乗者は他に二組。営業所で受付を済ませ、案内された車は日産「Cube」。箱型のボディーが特徴で、娘が乗っている車と同じ車種。この車は女性に人気があるようだ。

 花巻は、童話作家・詩人として知られている宮沢賢治が生まれ育ったところとして名が知られている。彼の著作、「雨ニモマケズ」「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」などは子供の頃によく読んだ記憶がある。彼は、作家としてだけではなく、教育者、農業者でもあり、そのほか天文・歴史・哲学・化学・生物・音楽など多方面にわたってその才能を発揮したが、惜しくも37歳の若さでこの世を去った。花巻市矢沢には彼を顕彰する宮沢賢治記念館が建てられているが今回は割愛。

[ ハプニング ]
 カーナビをセットしていざ出発。ナビの示すままに走り1時間あまりが過ぎた頃、どうも事前に予定したルートより遠回りしているように思い、この旅のために用意したコース地図を取り出して確認してみるとやはりルートから反れていた。どこかで方向を誤ったらしい。再度目的地をセットし直して走る。30分ほどしてようやく早池峰へ至る県道43号線へ出た。あとは一本道。の筈だった・・・

 目的地までもう少しのところまで来ると、ナビは左側の脇道へ入るようにとのアナウンス。人家の間に挟まれた道を進むと、小石がごろごろとして車のすれ違いもできないほど道幅の狭い山道となり、どんどん山を登っていく。しばらく走っても家らしきものが見当たらない。どうやら道を間違えたようだ。そこで一旦県道まで引き返してもう少し先へ進むことにした。

 なんと、県道へ戻って5分も経たないうちに今日の宿の看板が見えた。そういえば北海道旅行のときも釧路から阿寒湖へ向かう途中、ナビがとんでもない獣道へ案内してくれて心細い想いをした経験がある。やはりナビの過信は禁物。宿の駐車場へ車を入れると、宿から人が出てきて "お客さん、車、パンクしてますよ" の声。車から降りて見ると、左の後輪がペシャンコ。おまけにホイールキャップもなくなっている。パンクのショックでどこかへ飛んでしまったらしい。アチャー!!

 デコボコの砂利道を走っていたためパンクに気がつかなかったのだ。声を掛けてくれた人に尋ねると宿のご主人のようで、"予備タイヤとジャッキはありますか ?" と聞かれ、車のトランクを覗くと予備タイヤはあってもジャッキが見当たらない。私が困っている様子を見かねたのか、ご主人が "予備タイヤに交換してあげましょうか。" と言ってくれ、家から道具を持ってきて修理してくれた。感謝!!。

 タイヤ交換後、パンク修理も出来るというガソリンスタンドへわざわざ電話をかけてくれ、そこへ至る道筋も教えてもらったので早速行ってみると、"これはタイヤが裂けていて修理不能だから、代わりのタイヤが必要ですよ"と言われて ガクン!!。レンタカー会社に電話して事後処置を尋ねたら "とりあえず営業所まで来てください" 。スタンドの店員さんに空港までの近道を聞くと、地図で道を示して "1時間ほどあれば行けます"とのこと。ンンン??、さっき来た道はなんだったんだろう。

 レンタカー会社で事情を話したら、"別の車に替えます。その代わり、タイヤとホイールキャップの代金は保険対象外なので弁償していただきます"。・・・トホホ。やむなく代金を支払って再び宿へ向かい、着いたときには既に5時近く。計画では3時には到着して薬師岳を散歩するつもりだったのに、大幅に予定が狂ってしまった。しかし、考えようによっては幸運だったのかもしれない。もし人里離れた山中でパンクしていたら携帯電話も通じず、動くこともままならない状態で途方に暮れていたに違いない。

 夕食までに少し時間があったので、早池峰山の登山口を確認がてら車で谷川沿いの道を走ってみることにした。道の両側にはヤマアジサイやクガイソウが点々と咲き、木々の緑が美しい。夏とはいえ、山では午後6時近くともなると木々に覆われた路は薄暗くなってくる。数枚の写真を撮って宿に戻った。

クガイソウ ヤマアジサイ タマガワホトトギス キバナノヤマオダマキ

[ 早池峰神社 ]
 宿は、鶏頭山から早池峰山へ至る登山口の傍に建っていた。すぐ近くには早池峰神社がある。これは早池峰山頂上にある早池峰神社の里宮とでもいえばいいのだろうか。早池峰神社の歴史は古く、今を遡ること1,200年前の大同元年(806年)、来内(らいない)村の猟師藤蔵(後に普賢坊と改名)が山頂に奥宮を建立し、神霊を祀ったのが始まりと伝えられている。その後、普賢坊は麓の岳に新山宮を建立した。これが明治の神仏分離により、現在の早池峰神社と改称された。

 早池峰神社では毎年8月1日に例大祭が行われ、前夜と当日には早池峰神楽が奉納される。早池峰神楽は、岳神楽と大信神楽の総称で、別名山伏神楽とも呼ばれ、数百年の歴史を持ち、1976年(昭和51年)国の重要無形民族文化財第一号に指定されている。

 早池峰山(1,917m)は霊山として六角牛山(ろっこうしさん 1,294m)・石上山(いしがみさん 1,038m)とともに遠野三山と呼ばれ、古くから山岳信仰の対象となってきた。明治の民俗学者柳田國男が明治45年(1912年)に発表した説話集「遠野物語」の「神の始」に遠野三山を守る三人の女神の話が載っている。それを要約したものをご紹介しよう。

 「大昔、女神がおり、三人の娘たちを連れて来内村の伊豆権現社のあたりに泊った折、母の女神が『今夜よき夢を見た娘に、よき山をあげよう』と語って眠りに就いた。夜が更けて、天より霊華(神の霊なる華)が降りて、姉の女神の胸の上に止ったことに気づいた末の女神が、それをこっそり取って自分の胸の上に載せて休んだので、最も美しい早池峰山をもらい、姉たちは六角牛山と石神山(石上山)をもらった。若い三人の女神はそれぞれ三つの山に住み、今もこれを治めているので遠野の女たちは女神のやきもちを恐れ今でもこの山に登らないといわれている。」 

 早池峰神社にも参拝してくるとよかったのだが、とんだハプニングのおかげで見れずじまい。夕食後、リュックには撮影機材だけを残し、衣類・洗面具などをサブザックに詰め替えた。こうすると荷物の収まりも良く、必要なものをすぐに取り出すことができるし、登山中もリュックの重量を減らすことができるので何かと便利。明日は早朝4時の起床予定なので朝・昼食の弁当を宿にお願いして翌日に備えた。
 

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