プロローグ 旅立ち・美瑛へ 花の丘富良野 霧多布湿原 釧路湿原と湖
オホーツクの花 知床と原生花園 サロマ湖 エピローグ HOME




オホーツクの花

7月1日(木) 曇り後晴れ

[ 行程 ]
仁伏温泉 D52 ・R243 ==> 美幌峠 R243 ==> 屈斜路湖 ==> D52 ==> 摩周湖 D52 ==> 弟子屈
R243 ==> 虹別 D13 ==> 中標津町当幌 R272 ==> 標津町茶志骨 R244・D950 ==> 野付半島 
D950・R244 ==> 標津町茶志骨 R335 ==> ポー川史跡自然公園 R334 ==> 羅臼 R334 ==> 
知床峠 R334・D93 ==> 知床五湖・カムイワッカの滝 D93 ==> R334 ==> 三段の滝 R334 ==> 
宇登呂
 (注) 道路番号の「R」は国道、「D」は道道

[ 屈斜路湖 ]
 民宿「湖畔の宿・にぶしの里」は、その名のとおり屈斜路湖畔の林の中に建っている。朝ともなれば小鳥たちの囀りが聞こえるものと期待して、前夜のうちに鳥撮影用の機材を整え、夜が明けるのを心待ちにしていた。目が覚めるとまだ少し雨が残っている。鳥たちは樹の葉陰でひっそりと雨を避けているのか、あまり鳴声がしない。外に出て宿の周囲を一回りしたのだが、カラスを数羽見かけただけだった。

 朝食をとりながらテレビの天気予報を見ていたら、間もなく雨は上がるようだ。名古屋を出発する前日、職場の同僚から「屈斜路湖を見るのだったら、美幌峠からの眺めが素晴らしい」と言われていたのを思い出し、最初の目的地をそこに定めた。

 屈斜路湖は、北海道ではサロマ湖に次いで2番目に大きく、日本最大の屈斜路カルデラに横たわる周囲57km、面積79.3Kuのカルデラ湖である。その名の語源となったアイヌ語は「クッチャル(のど口)」、「湖が川となって流れ出す所」という意味で、釧路川の源の湖であることに由来する。
 湖心にある「中島」は、周囲12km、面積5.7Kuもあって、淡水湖内の島としては日本最大を誇っている。

 湖岸を巻くように走る道道52号線から国道243号線を経て美幌峠までは約30kmの道程。峠に入る頃から空が明るくなり、陽も射してくるようになった。ただ、峠の頂上あたりがガスっているのが気がかりだ。案の定、峠の展望台へ着くとスッポリと雲に覆われ、下界は見えない。昨日の阿寒・摩周湖といい、どうも湖とは縁がないようだ。残念!

 峠を下るとき、山の中腹で "たとえ面影だけでも"、と思って撮ったのが左。和琴半島付近で再度湖の写真をと、チャレンジして撮ったのが右の写真。どちらも、湖の雰囲気を味わうにはイマイチ。

 摩周湖は次の目的地「野付(のづけ)半島」へ行く途中にあるので、"もしや" という期待を抱いて再度寄ってみることにしたのだが、展望台が近づくにつれて霧が深くなり、この日も昨日と同じ濃霧。摩周湖のカムイとはどうも相性が悪いようだ。

 今来た道を引き返し国道243号線を野付半島へ向けてひた走る。時間が経つとともに空が次第に明るくなり、綺麗な青空が拡がってきた。この青空がほんの一時でも摩周湖の上にあったなら、という未練がましい想いもしないではなかったが、気を取り直して更に車を北に進める。

[ 野付半島 ]
 摩周湖のある弟子屈から野付半島の入り口「標津(しべつ)」までは67km。1時間少々の道程。これまで走ってきた道と比べると人家が多いほうだ。標津からフラワーロードと名づけられた道道950号線で野付半島に入ったとたん、左手にオホーツクの海が目に飛び込んできた。真っ青な海だ。風が強いせいかかなり波も荒い。その向こうには国後島が長く横たわっている。イメージに描いていたよりも意外と近い。


 野付半島は、半島の先端部が陸地に向って湾曲して「人のあご」に似た形をしており、これが地名の由来ともなっている(「野付」とは、アイヌ語で「あご」の意味)。この半島は、潮流によって運ばれた砂礫が長年月にわたって堆積した砂嘴(さし)と言われるもので形作られ、半島先端までの延長は28qにもなる。

 大正12年、詩人、大町桂月は、野付湾に映える半島の森林美と海岸美を絶賛して、「北海の天の橋立て」と名付けたという。野付湾は、北海シマエビの産地でもあり、漁期の夏には打瀬船が白い帆を上げて湾内を巡っている。

 半島を車で走っていると「北方領土」の看板が目につく。名古屋にいると、土地から外国を意識することはまずないが、ここでは「ロシア」がこんな近くにある。なんだか不思議な感じがした。

 オホーツクの海と野付湾を隔てる半島の細い道を車で10分ぐらい走らせると、湾内の浅瀬に水鳥が群れているのが見えた。車を停めて早速撮影の準備。オホーツクからの強い風が間断なく吹き付け、三脚ごとカメラが揺れる。時折、身体ごと持っていかれそうな突風に見舞われた。

 タンチョウ

アオサギ

 タンチョウ
タンチョウ 野付湾 タンチョウ

 しばらくの間、初めて見る丹頂鶴の優美な姿に見入っていたが、風がさらに強くなったので撮影を切り上げ、半島の先へと進む。ところどころに砂嘴の巾が広くなって、ゆるやかなカーブを描きながら湾の内側に突き出している部分がある。そうした場所が海水に浸食されて、そこに生えていたミズナラの木が枯れ残り、風化してできた「ナラワラ」というところがあった。長野県・上高地の大正池を思い起こさせる風景だ。

美しい干潟 ナラワラ

 ナラワラから少し進むと道の両側に「ハマナス」が一面に咲いているところへ出た。やはりハマナスはオホーツクの荒海の背景がよく似合う。色も一段と鮮やかで、なによりも花に生気が満ちているのがいい。ここでは、いろいろな花を心行くまで堪能することができた。

ハマナス ハマナス 調査中 調査中
調査中 エゾキスゲ エゾスカシユリ 調査中
エゾキスゲ カワラナデシコ センダイハギ エゾフウロウ

 野付半島へ来たらここは是非とも見ておかないと・・・と観光案内に書いてあるのが「トドワラ」。
 先程の「ナラワラ」が「ミズナラ」の木であったのに対して、こちらは「トドマツ」が立ち枯れしたものだ。それぞれの「ワラ」は、漢字に直すと「原」になる。

 「トドワラ」を見るための駐車場横に、2002年5月にオープンした「野付半島ネーチャーセンター」がある。木造2階建てで、1階は土産物売り場とちょっとした食堂。2階には野付半島の自然を紹介するパネルなどが展示されているほか、展望デッキが造られており、ここからは「トドワラ」のある風景がよく見える。

 [ 野付半島ネーチャーセンター ]
  〒088-2264 北海道野付郡別海町野付63番地
  Tel:(01538)2-1270

 ネーチャーセンターを訪れたとき、ちょうど昼になったので軽い食事を済ませた後、売店で「北海道の花」「フィールドガイド・日本の野鳥」の2冊の本を買った。

 ネーチャーセンターからほんの少し走ると「原生花園」がある。ハマナス、エゾスカシユリが原野一面に咲いていて、その向こうには野付湾越しに斜里岳(1,545m)、標津岳(1,061m)を見ることができる。振り返ればオホーツク海と国後島。こうした風景を見ているだけでも、北海道へ来てよかったなあ、と思う。

 「原生花園」とは、いかにも北海道の原野の花園を思わせるいいネーミングだなあ、と思って調べてみると、雑誌「旅」の名編集長であり、旅行作家でもある戸塚文子さんが、昭和27年に造語した言葉だということがわかった。また、「北海道大百科事典」では、「海岸砂丘などの自然性植物群落のうち、草原を主とした美しい花の咲く場所の観光的な通称」との説明がなされているようで、網走国定公園の「小清水原生花園」を原生花園と呼んだのが最初ということだ。

原生花園を渡る風

エゾスカシユリ 見渡す限り花・花

ハマナスの群落


 原生花園の中をしばらく散策しながら美しい景色を心行くまで満喫した後、半島の先端まで行ってみようと車を走らせたところ、間もなく通行止めの看板があった。この先は自転車か徒歩でしか行けないという。先を見るとまだ相当な距離がありそうで、今日の宿・知床までの所要時間を考えると少し無理のようなので、ここから引き返すことにした。

 フラワーロード(道道950号線)から国道244号線に入って7kmばかり西に行くと、国道355号線との分岐点・伊茶仁へ出る。その少しに、カリカリウス遺跡と標津湿原を合わせた「ポー川史跡自然公園」がある。ここは、縄文時代からの歴史を物語る竪穴住居跡群と氷河期のツンドラ植物の生き残りといわれている湿原植物が見られ、探鳥会も催されているとのことだったので寄ってみることにした。

 [ ポー川史跡自然公園 ]
  〒086-1602 北海道標津郡標津町字伊茶仁2784番地
  Tel 01538-2-3674 Fax 01538-2-3674
  E-Mail:archives@shibetsu.org
  URL:http://www.kirari.ne.jp/asuparu/contents/07/0701/07010610/index.html

 とりあえず鳥を求めて公園内を散策しようと、散策路の入り口に立ったら「ヒグマに注意」の看板。辺りを見回しても花らしきものはそれほど咲いていない。それなら「君子危うきに近寄らず」とばかり、早々に退散することとした。

 知床半島を前方に、国後島を右手、オホーツク越しに見ながら、海岸に沿いの国道355号線を快適に走る。羅臼漁港から左に折れると、道は国道334号線へと変わる。次第に山路の登りになり、知床峠が近いことを感じさせる。急にガスが出てきて瞬く間に視界も悪くなった。

 [ 知床半島 ]

 峠の頂上へ着いた頃にはほとんど雲の中。しかも物凄い風と強烈な寒さ。形が面白いダケカンバの木があったので、車を停めて写真を撮ったのだが、とにかく立っているだけでも精一杯という感じ。我ながら、こんな状態でよくもまあ物好きに写真なんか撮るもんだ、と苦笑したほどだった。

 ようやく知床までやってきた。知床はアイヌ語で「シレトク(大地の行き詰まり)」という意味だそうで、なるほどと思わせる地名だ。知床は、平成16年1月に日本政府が世界遺産として推薦状を提出。平成17年6月には結論が出る予定となっている。

 峠道をしばらく下ると「知床五湖」へ至る道との三叉路へ出た。知床五湖は明日のコースとなっていて、今日はこのまま宇登呂の宿へ入る予定だったのだが、名古屋を出るとき、カミさんが「知床はヒグマが出るそうだから気をつけないと・・・」と言ったのをふと思い出した。もしかしたら明日そんなことがあるとつまらないなぁと思い、時計を見たら4時少し前だったので、とりあえず行ってみることにした。

 幸いガスも晴れてきている。知床五湖への道は、両側には白樺林が続き、走っていても清々しい気分。道の脇でエゾ鹿が草を食んでいる姿を何度か見かける。道道93号線を岬方向に向かって9kmほど行くと知床五湖への散策路入り口の駐車場に着く。係員が近づいてきて口にした言葉が、「今朝からヒグマが出没して湖への散策路は閉鎖しています」。「もしかしたら」が現実のものとなってしまった。

 散策は諦めるとして、せっかくここまできたのだから、と思って「カムイワッカの滝」まで足を伸ばすことにした。砂利路を走ること約7km。小さな川の橋を渡ったところに滝があった。この滝は、硫黄山から湧き出した温泉が流れ込んでいる川で、上流へ行くほど水温が高く、沢づたいに30分ほど上がると滝壺があって天然の露天風呂になっているという。

 「カムイ」は「神」、「ワッカ」は「水」のとこを言うが、この滝の水は硫黄分を多く含んでおり、有毒であるため、「神の水」というより、「魔の水」と言った方が正しいのかもしれない。

 空が曇っているせいか、少し薄暗くなってきたので、ホテルへの道へ戻る。知床峠と知床五湖への分岐点に「知床自然センター」があったので、立ち寄って「知床海岸の花 100」「知床の鳥」の2冊の本を買い求めた。

 [ 知床自然センター ] 
  〒099-4356 北海道斜里郡斜里町字岩宇別531番地
  Tel 01522-4-2114 Fax 01522-4-2115
  E-Mail:mat0946@shiretoko.or.jp
  URL:http://www.shiretoko.or.jp/index.htm
 
 国道334号線を走る車窓から、様々な形をした岩、海岸に打ち寄せる波が白く砕け散る姿などを楽しみつつ車を走らせる。途中に「三段の滝」というところがあったのでカメラに収め、夕暮れの道を宿へと向かう。

奇岩 オホーツクの夕陽 三段の滝

 今日も湖には縁が無かったが、明日こそ知床五湖を拝むことができるよう祈りつつ、早い眠りに着いた。











inserted by FC2 system