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大雪山と湿原巡り 〜 雨竜沼湿原 〜


7月24日(月) 雨後晴れ

[ 行程 ]
雨竜町 R275・D432 ==> 雨竜沼登山口 ==> 雨竜沼湿原 ==> 雨竜沼登山口 R275 ==> 深川西I.C 
道央自動車道 ==> 旭川鷹栖I.C R238 ==> 北美瑛 D213.D1160 ==> 旭岳温泉
 (注) 道路番号の「R」は国道、「D」は道道

雨竜沼湿原位置図

[ 雨竜沼をめざして ]
 民宿で朝と昼の弁当を貰って出発したのは午前5時30分。天気予報通り空は今にも降り出しそうな雲行き。真夏とはいえ山里はひんやりとした空気。ここ雨竜町は開村に先立つこと3年前の明治22年に華族組合により農場開拓が始められ、平成12年には開基100年を迎えたというから、比較的若い町と言える。田園風景の中を10分も車で走るともう暑寒別岳(暑寒別は、アイヌ語で「ソ・カ・ウン・ペ」滝上にあるもの)の山懐に入った。

 尾白利加川(おしらりかがわ)に沿うようにして走る道はよく整備され快適。一本道をひた走ると間もなく暑寒ダムに着いた。このダムは、農業用水を供給することを目的としたダムで規模はそれほど大きくない。ダムによって作られた湖は暑寒湖と名づけられ、周りの木々の緑を湖面に映して美しい。

 ダムを過ぎると砂利道に入った。一昨年、釧路湿原の砂利道でスピンした経験があるのでスピードを抑えながら走る。道の両側にはオニシモツケが繁茂しており、ときどき薄黄色の花をつけたオオウバユリや、紫色をしたチシマアザミなど背丈の高い花が目に付く。その中で1輪だけピンク色した花を見つけたのだが、どうも花の色・形が場所の雰囲気に似つかわしくない。調べてみると「ジギタリス」のようにも思えるが定かではない。

オニシモツケ チシマアザミ ハクサンボウフウ

オオマツヨイグサ オオウバユリ ジギタリス? エゾノレイジンソウ

 ダムを過ぎたあたりからポツポツと雨滴がフロントガラスに当たるようになってきた。"大降りにならなければよいが・・・" と願いつつさらに車を進めると、ペンケペタン川との合流点にさしかかり、ここから尾白利加川と別れを告げて道は大きく右に曲がる。道はさらに山深くなり徐々に斜度も増してきた。そうこうしているうちに雨竜沼湿原への登山口、南暑寒別荘に着いた。時刻は6時30分。

[ 雨中の登山 ] 
 目的地の雨竜沼湿原は、平成2年(1990年)に指定された「暑寒別天売焼尻国定公園」の中にある。登山道入り口となる南暑寒別荘周辺は国定公園の指定を機に、「雨竜沼湿原ゲートパーク」と名づけられて施設整備が行われ、南暑寒別荘もこれに合わせて全面改築された。

 管理棟に入って山の情報を聞いた後、入り口を出ようとすると、後ろから係員の "今日は本降りになるよ" との有難くないお言葉。車の中からリュックを取り出し、登山靴に履き替えた頃には徐々に雨音が高くなってきた。地図で見る限りでは雨竜沼湿原との標高差が約400m、途中に多少険しい道はあるものの危険な箇所はないようなので登山を決行。

 山道は砂利道で歩きにくい。間もなく「渓谷第1吊橋」と名づけられた橋に着いた。橋の下を流れるペンケペタン川の水は透き通って美しい。橋を渡りきるといよいよ本格的な山道に入った。この頃から次第に雨脚が強くなり、普段なら歩き易いであろう道もぬかるんでグチャグチャ。足を滑らせないように慎重に歩く。こうなると、もう花どころではなくなってくる。
 道の脇のところどころにヤマアジサイやヨツバヒヨドリが登山道に彩りを添えるが撮影もそこそこに先を急ぐ。

ヤマアジサイ ヨツバヒヨドリ 白竜の滝(高さ36m)

 登り始めてから約30分で白竜の滝へ着いた。滝を見る場所は登山道から脇道に入ったところに上からと下からの2箇所ある。下の方の手ごろな木陰を見つけてここで滝を眺めながらの朝食と決めた。白竜の滝は、200万年〜300万年前の火山活動によって形作られた溶岩台地の東端に当たるところに位置し、玄武岩溶岩の断崖となっている。高さは36mというが、見た限りではそれほど落差があるとは思えない。

 白竜の滝を過ぎて二つ目の橋を渡ると、ここからがこの登山コースで最もキツイ登り「険竜坂」にさしかかる。雨は止む様子も無く道はますますぬかるんできて非常に歩きにくい。雨が目に入らないように雨具の帽子のひさしを手で押さえながら視線は常に足元ばかり。ガイドブックには登山道脇にもいろいろな花が咲いていると書いてあったのだが、これでは花を探すゆとりもない。

 ところどころに立つ大樹の陰に身を寄せては雨を避けて休憩をとり、また歩き出す。午前8時30分、ようやく緩やかな登りになってきたと思ったら、視界が開けてきた。どうやら雨竜沼湿原の入り口まで来たようだ。辺りを見ると花の数が多くなっている。

最初に目についたのはオトギリソウ イワイチョウ シモツケ

 雨竜沼湿原は標高850m。東西2km、南北1kmほどの大きさがあり、その周辺にある大小の湿原まで含めると東西4km、南北2kmと、山岳湿原としては日本第2位の規模を誇る。雨竜沼が初めて地図に登場したのは、陸軍陸地測量部(昭和20年 内務省「地理調査所」に改組。昭和35年「国土地理院」となる)によって大正7年(1918年)に作成された5万分の1地形図に記された。発見・命名者は陸軍技師 小宮虎夫 とある。

 湿原の中には大小百数十個以上の池塘(ちとう)が点在し、花だけでなく、鳥や蝶・蜻蛉、魚など多くの生き物を育んでいる。かってはこの辺りにもヒグマが居たそうであるが、現在ではその数が減ってあまり見かけなくなったという。雨竜沼湿原に入ると、幅の広い木道が一筋引かれている。ここから先はなだらかな道で、晴れていればさぞ素晴らしい景色が見られたことだろう。

 ところで、かねてから「湖」「沼」「池」はどこが異るのかと疑問に思っていたのでこの機会に調べてみた。陸水学では、湖:天然にできたもので、水草の生えない深いところ(概ね5m以上)があるもの。沼:天然にできたもので、水草が全面に生えているもの。池:人が造ったもの。ダムはいくら大きくても池(貯水池)。ただ、実際の名前のつけ方は見た目のイメージで決まっているようである。
(滋賀県立琵琶湖博物館・・・http://www.lbm.go.jp/index.html)

 ついでに「池塘」についても調べてみると、大辞林では、塘は池のつつみ(土手)の意味で、高山の湿原や泥炭地(泥炭:湖沼や低湿地に生育したヨシ、スゲ、ミズゴケなどの植物遺体が、低温・水分過剰など分解作用が進まない条件下で、長年にわたり堆積して生成されたもの)にある池沼となっている。通常、湿原内にある比較的小規模な湖沼をさす。池塘の成因は河川の氾濫や湧水によって凹地に水が溜ったり、河道が変わったことにより湖沼となって取り残された河跡湖が起源といわれ、雨竜沼湿原の池塘には中田喜直「夏の思い出」の歌にあるような浮島が大小合わせて約10個ある。

[ 雨竜沼湿原の花 ]
 雨竜沼湿原には約200種類の植物が自生しているとのことで、雪解けの始まる5月下旬から再び雪が舞い降り始める9月下旬まで次々に美しい花が咲く。そのうちで最も花の種類が多い季節は7月上旬。今回の日程はそれより少し時期が遅いが、花が少ないというわけでもない。ただ、見たい花が何時咲くかによって訪れる時期を選ぶ必要があることは言うまでも無い。まずは湿原全体の雰囲気をご覧いただこう。それにしても天気に恵まれなかったのが返すがえすも残念。

広大な湿原も雨に霞んで池塘も花もその全容を見せてくれなかった。

 湿原に敷かれた木道は一周約3.5km。ところどころにテラスが設けられて大勢の人がすれ違うときの退避所や小休止の場所として利用できるようになっている。木道の両側には色とりどりの花が咲き、目を楽しませてくれる。この日は降雨の中、カメラ用の雨カバー(カメラのレインコート)を装着しての撮影であったため、思うような位置からの撮影ができず苦労した。

アキノキリンソウ ウリュウコウホネ ヒツジグサ シナノキンバイ

 撮影をしているうちに徐々に雨が止んできたと思ったら、今度は風。まことにカメラマン泣かせの天候には参った。そんなわけで撮れた花の数は非常に少ないものとなった。

ヒオウギアヤメ シナノキンバイ ハクサンチドリ エゾカンゾウ
コオニユリ チシマフウロ ナガボノシロ
ワレモコウ
エゾノサワアザミ

 予定では、当日の天気と体力の具合を見て雨竜沼展望台まで行くつもりだった。標高1,000m弱の展望台からは雨竜沼湿原の全貌を見渡すことができるが、雨中で行っても視界が得られないので止む無く途中で断念。展望台から更に足を伸ばして、増毛山地(『増毛(ましけ)』・・・アイヌ語で「マシュ」は「ウミネコ」、「ケ」は「ケイ」で来るという意味)の主峰暑寒別岳(1,491m)へ行くには、標高差が約500m、距離にして7.5kmほどあり、雨竜町からの日帰り登山は厳しい。

 湿原の木道は途中で二方向に分岐し再び合流して一周できるようになっている。二番目の分岐点を直進すると展望台へ向かうがここで右側の周回コースへと入り、帰路につく。最初の分岐点の手前に一段と高く作られている「湿原テラス」と呼ばれるところがあり、ここで昼食をとることにした。食事と言っても朝と同じく宿で作ってもらった握り飯3個と玉子焼きなど少々のおかず。

 食事中、10人ほどの団体客がドヤドヤと入ってきて彼らも昼食。リーダーらしき人が "座ると後が大変だから立ったまま食事をしてください。" とのご注意。" 食事時ぐらいゆっくりすれば・・・" と思ったが要らぬお節介。そういえば、これまで人と会ったのは老夫婦1組だけだった。季節柄もう少し登山客が多いかと思ったがこの悪天候で取りやめた人も多かったに違いない。食事が終わりかける頃ようやく雨が上がって雲間から青空が覗き始めた。

 帰路も同じ道を辿る。青空が見え始めたといっても山道は相変わらずのぬかるみ。それでも雨具が要らないだけ歩き易く、写真を撮るにも不自由はないのだが、大型の花はたっぷり雨水に浸って花弁がしおれたようになっている。これでは絵にならない。それでもなんとか花を探しながら山道を下った。
右の写真はエゾノヨツバムグラのようだが、左はどう探しても名前が分らない。

ヤマブキショウマ タニウツギ ??? オオバミゾホオズキ

[ 旭岳温泉へ ] 
 南暑寒別荘に着いたのは午後3時。下山届を済ませて管理棟で 佐々木純一著「花紀行 雨竜沼湿原」という本を1冊買い求め、いざ出発。ここから今日の宿泊先、旭岳温泉までは124kmの道程である。国道275号線から深川西I.Cで道央自動車道に入り、旭川鷹栖I.Cまでは快適に走ることができたが、旭川の市街地へ入ったとたん、信号待ちの連続。

 赤信号がようやく青に変わって走り出すと次の信号はすでに赤。これの繰り返しで辟易した。系統式信号に馴れている人間にとってはとても苦痛であった。地球温暖化が叫ばれている今日、交通渋滞によるガソリン消費量もばかにならないと思うが、交通運輸面でも工夫すべきではないか、と文句の一つも言いたくなる。やっとの思いで市街地を抜け出したときは正直ホッとした気分になった。

 道は東川町から忠別川沿いに走る。ここからはほぼ一本道。美瑛町忠別で天人峡方面への道と別れていよいよ大雪山麓の山道へ向かう。時刻はすでに5時を回っているが夏の陽はまだ明るい。ここでも道路脇に時々目をやって花を探すがそれほど見当たらない。
 ところどころにヤナギラン(写真左)、オオウバユリが咲いている程度であった。右の花の名は不明。

 今日の宿は旭岳ロープウェイ乗り場近くにあるペンション。宿に着いたのは5時45分。さすがに山の中だけあって夕暮れの気配が漂い、頬に当たる風もヒンヤリとして肌寒さを感じる。それもそのはず、ここは標高1,070m。北海道の山の標高は1000m足して考えるようにと言われるので、同じ標高でも本州の山より6℃は気温が低い計算となる。

 最近はどこもかしこも禁煙が多いが、"もしや" と思った通り宿は全館禁煙。喫煙者は外に出て蛍ヨロシク煙草の明かりを灯さなければならない。これも時流。仕方ないか。明日は待望の大雪山への登山。北海道旅行では習慣ともなっている、ビール中瓶1本を飲んでの夕食と、翌早朝の出発に備えて午後10時には就寝。明日は良い天気でありますように。


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