天 生 湿 原  

Vol.1

07年6月2日(土)
 天生湿原へは2年前から行きたいと思っていたが、国道360号線の道路崩壊などがあって入ることができずようやく念願が叶っての初訪問となった。国道360号線は毎年11月から5月末まで積雪のため冬季閉鎖されることは知っていたので、5月末、国道事務所に電話して開通時期を確認しておいた。白川郷から天生峠までは6月に入ってもウイークデーのみ通行止めが続く(土・日曜、祝日は通行可)ようで、そちら方面から入る場合は注意が必要。

 午前5時に自宅を出発して飛騨清見I,Cから小鳥川沿いの道を走り、天生峠の駐車場に着いたのは8時半頃。早朝のことだからせいぜい数台しか車は入っていないだろうと思いきや、既に30台近い車で驚いた。前日からテントで野営していた人もいたのかもしれない。登山道の入り口で整備協力金として500円を支払う。歩き始めてすぐ、右手に早くもサンカヨウが眼に入った。

サンカヨウ。天生湿原へ至る路の随所に咲いていた。

 登山道脇にはタムシバやムラサキヤシオツツジなどの樹木の花、下を見ればところどころにタケシマランやミツバオウレンが目に付く。ミヤマカタバミは白花とピンクが入り混じって咲いており、まだここでは春に入ってから間もないことがわかる。しばらく歩くと前方で"ヒメイチゲだ!"の声。行ってみると、アズマイチゲより随分こぶりな白い花が咲いていた。葉を見れば、やはりイチゲの仲間。

コナスビ ヒメイチゲ ヒメイチゲ コキンバイ
サンリンソウ タケシマラン ミツバオウレン キヌガサソウ

 キヌガサソウも登山路のいろんなところで見かけたが、どれも少しこぶり。栂池自然園で見たものとは随分大きさが違う。これから大きくなるのか、それともこの土地特有の大きさなのかはわからない。小さな沢を渡ったところで数人がなにやら感嘆の声を上げている。その中のガイドらしき人の指差す方向には、なんと緑色の花をつけたニリンソウが一輪咲いていた。

 天生湿原へ来てみて驚いたのは、サンカヨウの多さもさることながら、ツバメオモトが登山路脇に普通に咲いていたこと。しかもいつも見るものより株が大きいように感じられる。林床の薄暗いところに隠れるようにして咲いているというイメージからは程遠いものだった。

サンカヨウ。登山道はまるでサンカヨウの花道
ツバメオモト 緑花のニリンソウ ノウゴウイチゴ ツクバネソウ

 木立に囲まれた湿原に着くと、一面にミズバショウとリュウキンカが周りの新緑と絶妙のコントラスト。立ち寄る人の誰もが感嘆の声を上げ、盛んにシャッターを切っていた。すぐ傍にはブナの巨木が瑞々しい葉を繁らせ、大きな林を作っている。なんとも素晴らしい風景だ。

ミズバショウとリュウキンカが乱れ咲く天生湿原


湿原に咲く花 ブナ林 ムラサキヤシオツツジ タムシバ

 ところどころに青紫のキクザキイチゲが見える。その中にピンクの花が一輪。こんな色は初めて見る。もう花の盛りが過ぎているのか、花弁が少し内向きに巻いてしまっているのが惜しい。当初は籾糠山へ登る予定であったが、花の種類の多さについつい夢中になって写真を撮っているうちに時間が足りなくなってしまった。木平湿原まで登ってから下山することとし、もう一度天生湿原に立ち寄って駐車場まで戻った。

リュウキンカ コミヤマカタバミ ミヤマカタバミ ズダヤクシュ
キクザキイチゲ キクザキイチゲ ザゼンソウ モミジの花

 帰り道は、白川郷を経て荘川iI.Cへ向かった。その途中、"せっかくここまで来たのだから、ひるがの高原を見て帰ろう"と予定変更。国道156号線を一路南へ進み、まず「ひるがの湿原植物園」へ入った。入口で係員の方に"どんな花が咲いていますか?"と訪ねると、"池にコウホネ、ヒツジグサなど。それと、カキツバタが見れます"とのこと。散策路に入ってすぐ右の池にヒツジグサの葉が見えた。時計を見ると午後3時を少し回ったところ。

 ヒツジグサは、羊の刻(午後3時〜4時)に花が咲くのでこの名があるというから、ぴったりの時間に来たことになる。池の水面を見回すと、スイレンより少し小さくて白い花が咲いている。なにか儲け物をしたような気分。その傍にはコウホネが青空を映した水面から茎を伸ばして頭に黄色の花を付けていた。これもラッキー。

コウホネ コウホネ ヒツジグサ スズラン
ベニバナイチヤクソウ エビネ カキツバタ ジュウニヒトエ

 「ひるがの湿原植物園」と隣り合うようにして「分水嶺公園」がある。この公園から流れ出た水は、一方は長良川へ流れて下流で太平洋へと注ぎ、一方は荘川となって日本海へ注ぐ。その分岐点に流れの方向を示す矢印を刻んだ石が置かれている。園内には草花も見られ、この日は思いもよらずかねてから見たいと思っていたベニバナイチヤクソウに出会うことができた。ほんの気まぐれで立ち寄っただけなのに幸運に恵まれ、満足な一日を過ごすことができた。


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