乗  鞍  岳  

Vol.4

09年8月3日(月)
 二度め東北旅行から帰ってほぼ十日。例年なら山の天気は今が一番安定しているときなのに今年は雨の日が多く、まだ梅雨も明けていないという異常な状態。それでも数日前から、天気予報を見ては山へ出かけるタイミングを見計らっていた。昨日の夕方になって長野県の天気予報を見たら県内各地のほぼ全域に晴れマークがついている。ただ、気象庁の「山の天気」で見た乗鞍岳の予報は、「曇りまたは霧時々雨」となっていたが、この際は「山の天気」よりも一般の天気予報のほうが当たりそうな気がしてダメ元のつもりで出かけることにした。

 早朝3時起床、3時半自宅発というのがこのところ長野の山へ出かけるときの習慣のようになっており、この日もその通りの日程に従った。朝、自宅を出るときは当然ながらまだ真っ暗。中央高速の瑞浪あたりまで走ったところでようやく空が白々と明け始めた。少し雲はあるが天気は良さそう。中津川に着くと空には全く雲がなくなり快晴。ここで高速道路を降り、国道19号線を経由して木祖村から県道26号線に入る。今は松本市になった寄合渡まで行くと、路側に「上高地乗鞍スーパー林道は通り抜けできません」との看板。

 止むなくスーパー林道コースを諦め、26号線を国道158号線の奈川渡まで行って左折、前川渡から県道84号線で乗鞍高原へ入るコースに変更。こちらは距離的には多少遠回りになるかもしれないが、道幅が広く、アップダウンも少ないため時間的にはこの方が早いかもしれない。乗鞍エコーラインのシャトルバス駐車場に着いたのは6時40分ぐらいだろうか。7時発のバスに乗って肩ノ小屋登山口で下車し、いよいよ散策開始。

肩ノ小屋付近から見た乗鞍コロナ観測所


 バスを降りたら快晴で嬉しい誤算。登山道脇の斜面は昨年の豪雨の爪痕がまだ残っている。昨年はそれでもミヤマダイコンソウやミヤマキンバイ、コイワカガミがところどころに大きな群落を作っていたが、今年はそれが見当たらない。このところの雨続きで花の数が少なくなったのか、それともすでに咲き終わってしまったのかもしれない。登山道の左手にある大雪渓では夏スキーを楽しむ若者が大勢いて、斜面を登っては滑り降りる。リフトがあるわけではないから "あんな大変なこと自分にはできないなあ"と思いながら眺めていた。

アオノツガザクラ アオノツガザクラ キバナシャクナゲ キバナシャクナゲ
ミネズオウ ミネズオウ コケモモ コケモモ

 ヨツバシオガマは今が最盛期なのだろうか、これも点々と群れを作って咲いている。イワギキョウはまだ朝が早くて気温が低いためか蕾のものが多く、咲いているのはわずかな株しかなかった。ここで見るゴゼンタチバナは心なしか花がこぶりのように思う。それに、数も少し減っているようだ。

ヨツバシオガマ
ゴゼンタチバナ ゴゼンタチバナ イワギキョウ イワギキョウ

 この日は雨を覚悟していたこともあって、寒さしのぎに長袖シャツの少し厚手のものを着てきた。それに加えてヤッケもはおってきたので9時前というのに早くも暑さを感じるようになった。水分だけは切らさないよう、水筒には冷たいお茶、リュックのポケットにはミネラルウオーターとコーヒー。ヤッケを脱ぐついでに少し休憩。木曽方面の山々の中腹には雲海が広がり、白く光っている。眼前に広がる大パノラマを眺めながら飲むコーヒーの味はまた格別。

不消ケ池


 肩ノ小屋の少し下へ来てようやくチングルマの群落に出会えた。もう綿毛になっているかと諦めかけていただけに、まだ立派な花をつけていてくれたのが嬉しい。この付近にもハクサンイチゲはあるものの、近くに寄って見るとほとんどの花がもう散りかけている。やはり6月下旬から7月上旬でないと生きの良い花は見れないのだろう。肩ノ小屋付近は花が多いことで知られ、現に数年前まではそのとおりだったと記憶しているが、このところ次第に少なくなっていくのが淋しい。

チングルマ
ヒメクワガタ

 肩ノ小屋から畳平に向かう山側の斜面にはヒメクワガタが多く見られる。この花は小さくて目立たないけれど、カメラのレンズを通して見ると、花によってピンクから青紫まで微妙な色の変化があって美しい。ミヤマキンバイとミヤマダイコンソウはどちらもバラ科だけあって、花だけを見ていると非常によく似ていて見分けがつきにくい。しかし、葉を見れば一目瞭然であり、ミヤマダイコンソウの丸い形を覚えておけばミヤマキンバイの3小葉との違いは容易に区別がつくだろう。

ミヤマキンバイ
コイワカガミ コイワカガミ イワツメクサ イワツメクサ

 富士見岳周辺の岩がゴロゴロしている斜面ではイワツメクサの真っ白な花がところどころに群落を作って咲いている。この花は、ただ1輪の花だけを撮っても味気ないので周囲の環境も広く入れ込んで構図を決める。コイワカガミは花の赤味がかったピンク色が美しいのだが、いざ写真に撮るとどうしても花が白っぽくなってしまう。それに、それらしき背景を選ばないと雰囲気の良い写真にならないので場所選びには苦労する。写真を撮るにはまことに難しい花だと思う。

霧に包まれた不消ケ池


 乗鞍岳のメインストリートともいえる散策路の中ほどに「不消ケ池(きえずがいけ)」がある。そこを通りがかったときに、突然ガスが湧いてきて水面を覆い始めた。残雪が池に潜り込んでいる部分は水の色がコバルトブルーになりとても美しかった。散策路には私の他にも大勢のカメラマンがレンズを向けていた。富士見岳から鶴ヶ池を巡る登山道脇の砂礫地にはさすがに最盛期は過ぎたとはいえ、コマクサが彩りを添え、ミヤマコウゾリナ、ダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ、ウサギギクなどの黄色の花も多い。

ミヤマダイコンソウ ミヤマダイコンソウ ミヤマキンポウゲ ミヤマキンポウゲ
コマクサ

 不消ケ池から少し先へ進んだところにお花畑へ向かう枝路がある。この道はかなり整備されて歩きやすくなった。しかし、以前は水辺まで降りることができ、イワギキョウやヨツバシオガマの群落を間近に見ることができたのだが、今はロープを張られてしまったので近寄ることができない。ちょっと複雑な気持ち。そんなことを考えながら散策路を進むとやがて右手にコバイケイソウ群落が見えてきた。傍にはかろうじて美しさを留めている咲き残りのハクサンイチゲがあった。

タカネミミナグサ ミツバオウレン チングルマなど ハクサンハタザオ
イワギキョウ コバイケイソウ ハクサンイチゲ ハクサンイチゲ

 お花畑周辺は団体客でいっぱい。あれだけ人の往来が激しいと写真どころではないので元の道まで戻り、時間調整がてら富士見岳へ登ることとした。ここに咲く花はミヤマダイコンソウ、ウサギギク、コマクサといったところ。下の写真は頂上から畳平方面を撮ったもの。もう昼近くになっていたので時々ガスが這い上がってくる。鶴ヶ池が隠れてしまいそうになったので慌ててシャッターを押した。余談ながら、道路に腹這いになって上のイワギキョウを撮っていたら、マウンテンバイクに乗った学生さんに "どうされましたか?" と声をかけられてしまいました。(笑)

左・お花畑、中央・畳平と恵比寿岳、右・鶴ヶ池と大黒岳


 鶴ヶ池を一周してバスセンターから再びお花畑へ降りた。時刻は1時を回ったためか、先ほどと比べるとかなり人の姿は減っている。ここではなんといってもクロユリがお目当て。自分の目論見ではハクサンイチゲの花の間からクロユリが頭を出しているところなどを撮ってみたいと思っていたのだが、肝心のハクサンイチゲが・・・。ミヤマキンバイもかなり咲き終わっていてイメージどおりの写真とはいかなかった。

クロユリ
クロユリ

 帰りは午後3時発のバスに乗ることにした。まだ30分ほど時間の余裕があったので大黒岳沿いの道路を歩いてみた。目に留まったのはコウメバチソウ。乗鞍ではなぜかここでしか見たことがない。その他、舗装道路に置かれたコンクリートブロックと路面との僅かな隙間に溜まった土にイワギキョウが生育していた。ここで二人連れの女性からチシマギキョウもあると、その場所を教えられ、行ってみると残念ながら花が閉じており、撮影は断念。

コウメバチソウ コウメバチソウ オトギリソウ ウサギギク

 帰路は高山経由で東海北陸自動車道から帰ろうかとも考えてたが、前回、その道を通って渋滞に巻き込まれたことを思い出し、やはり中央道経由で帰ることとした。それでも3時発のバスに乗って乗鞍高原バスセンターまで戻り、自宅に着いたのが8時少し前だった。



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