伊吹山麓・4月の野草  

Vol.1


06年4月1日(土)
 桜の花もようやく満開を迎えようという3月末、この地方は時ならぬ雪に見舞われた。この日は養老の三方山へ花を撮りにいく予定で、前日、土産物を売っている店をネットの電話帳で探して積雪状態を確認したところ、滝へ行く道の雪は消えているとのことだった。運を天に任せて行ってみようと決心。

 朝6時自宅を出発。現地へ着くと、滝へ至る道に雪は残っていない。滝上の駐車場に車を止め、養老の滝(写真)を見てから登山口へ向かった。ところが、沢を渡って急坂へさしかかったとたん、登山道には前日降った雪が積もっていた。

 道は細く滑りやすい。5分ほど登ってみたが、このまま行ってみても肝心の花が雪に埋もれている可能性が高く、また、単独登山で万が一滑落でもしたら助けてくれる人とて居ない。無理は避けるべきだとの結論に達し、下山して伊吹野へ行ってみることとした。

 最初に向かったのはスハマソウが咲くポイント。前回の写真に少し不満を感じていたので再度チャレンジのつもりだったのだが、行ってみると花は雪に埋もれ、わずかに姿を見せている花も早朝とあって身をこごめるように花を閉じていた。そんな中でも背丈の高いセツブンソウだけが凛と咲いていた。

雪の中に健気に咲くセツブンソウ

1箇所、数輪の花を見せていたスハマソウ


 次に向かったのは、セツブンソウの群落があるところ。ここも先程と同様スッポリと雪に覆われ、見れた花の数は少なかった。それでも何か咲いているのではないかと散策していたら、先に来て写真を撮っていた人に声をかけられた。話をお伺いしたところによると、仕事をリタイアした後は気ままに山や野に出かけ、撮った写真をホームページに掲載したりして楽しんでおられるようだった。

 "羨ましいですね" と言ったら、"いや、やっぱりなにがしかの仕事を持っていたほうが、趣味の時間の楽しさが大きいと思います" との返事。制約の中で得られる束の間の自由時間だからこそ、趣味に過ごす時間の喜びも大きいのかもしれない。しばらく花情報やカメラの話などの雑談をしていたら、ホームページ用の名刺をいただいた。写真を通していろいろな方と知り合いになれるのは楽しい。お別れしてから農道脇に咲く花などを撮って次の目的地に向かった。

水路などの水辺に咲くセントウソウ。
右は少し花が開いている。

左の花はカテンソウ(花点草)。
右は背が高くなったヤマネコノメソウ。


 姉川沿いに点々と連なる集落の道をさらに上流へ向かい、アズマイチゲがあるという場所まで来たが、どの辺りに花があるのかさっぱり見当がつかない。たまたま道端で二人のおばちゃんが世間話をしているのを見かけ、"この辺りにアズマイチゲが咲いている場所があると聞いてきたのですが・・・" と声をかけると、一人の方が"ああ、それは私の畑の土手に咲くんですよ" と教えてくれ、その場所まで案内していただいた。

アズマイチゲ ニリンソウは蕾がわずかに開いたばかり フキノトウ

 "いつもの年だったら今頃この土手いっぱいに咲いているんだけど、今年は雪が多くて花が遅れてしまっている" とのこと。アズマイチゲも半開きのまま。ニリンソウはようやく花芽が出て、チラホラ蕾が見えている程度。この様子では見ごろは4月半ば過ぎになりそうな感じ。"ここにフキノトウが咲いているよ" と親切に畑を指して教えてくれた。

 花を探しながらしばらく写真を撮っていたら、"こんにちは" の声。振り向けば首からカメラ、手には三脚を持った一目で花を求めてのカメラマンとわかる男性。"アズマイチゲ咲いていますか?" と聞かれ、"いえ、さっぱりですねぇ" と答えると、"先週ここへ来たとき、もう少しで見ごろになる花があってそれを見に来たんです" とのこと。
 
 しばらく探しておられたが、"あれっ! 花が無くなっている"。見れば、土手にぽっかりとえぐったような穴があり、明らかに根っこごと花が掘られた跡。"ここの花が咲くのを楽しみに一週間待っていたんだけど、ひどいことをするねぇ。家に持ち帰っても育たないのに・・・"。聞いていて気の毒になってきた。"いろいろな考え方もあるけど、山や野に咲く花は、花の置かれた厳しい環境や周りの風景と相まって、そこにあってこそ美しいのに・・・。" と語った言葉には大いに頷けるところがあった。

 ここへはよく来られる方のようで、去年の様子などを教えていただいた。突然、思い出したように "アマナの咲く場所にご案内しましょうか ?、もう少し経てば花が見られると思います。" と言って、もう一段上の畑へ登り、"ここには立派なアマナが咲きます"。今日は、いろいろな方に出会って貴重な花情報が得られ、来たかいがあった。

 まだ帰るには少し早かったので、昨日インターネットで探したY湿原の場所を確認しようと思い立ち、地図を頼りに現地へ向かった。2万5千分の1の地図では地名がはっきりわからなくて、探し当てるのに苦労したがなんとかたどり着いた。林に囲まれたこじんまりした湿原で、予期したとおり花の季節にはまだ早く、ショウジョウバカマ(写真左)が目についた程度だった。
 右の咲きかけの花はどんな花が咲くのかわからなかったが、ピンクがかった薄紫が美しかった。

 帰り道、ゆっくり車を走らせながら農道の両脇を見ると、オオイヌノフグリが満開の時を迎え、畦道をスカイブルーに染めている。その中に混じって、ホトケノザの濃いピンク、タネツケバナの白い花が彩を沿え、ツクシが青空に向かって丈比べをしている。

 山にはまだ雪があっても、里ではやっぱり春なんだということを実感させてくれた。他に何か咲く花は、と思って注意しながら車を進めていたが、時折タンポポを見かけるぐらい。最後に伊吹薬草園にも立ち寄って家路についた。

タネツケバナ

ホトケノザ

オウレン

ヒロハノアマナ



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